生きていく詩

ほらほら

ともしび

男は、酒で眠った。

男は、悪夢で目覚めた。


男の心には気持ちの極地が混在し、

それが常に入れ替わっていた。


心は、乾き、餓えた。

頭脳は冴え、そして重かった。

身体は、酷く冷たかった。


引き伸ばされた時間は、

男に、万年の思索と苦しみの時を与えていた。


青空に浮かぶ白い雲。

河原に映える菜の花の色。

若草が芽吹き、桜が薄紅の蕾を纏う。


人々の声が、虚ろに響く。

己の声が、虚しく届く。


嗚呼、それでも世界は美しい。




世の灯を眺めては、

男もまた、己の心に灯を灯す。


だが、その灯は弱々しく、

消して外には漏れ出さない。


ただ、男の心を、優しく焦がす。


嗚呼、それでも世界は美しい。




男は祈る、己の灯に。


どうか、どうか、消えないでくれと。

世を照らす、灯の一つに、になってくれよと。


たとえ、風が吹こうと。

たとえ、雨が降ろうと。


我が灯よ。決して消えてくれるなよと。


だから男は、己が心を溶かすのだ。

だから男は、明日も立つのだ。


嗚呼、世界は本当に美しい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る