2-2
バーベキューも苦手だが飲み会も苦手だ。部屋の隅にいても誰かが私を見つけて酔いの勢いで話しかけにくる。
「ほらアホウドリちゃんも飲んで飲んで」
明らかに嫌な顔をしているのに毛深く暑苦しいゴリラ主任は誰にでもお酌をしたくて堪らないらしい。
上司にであるゴリラ主任からお酌を断るわけにもいかずに私は半笑いでグラスを差し出した。
「いやあ、アホウドリちゃんには感謝してるからね!お礼言わないと!」
何に感謝しているのだろうか。
毎日のように仕事を頼みに来ることだろうか休憩時間に聞かされる奥さんの愚痴だろうか。
お酌をしながらまた奥さんの愚痴を言うんだろうな。
「この前もみーくんに怒られてさ」
ほら始まった。
「また愚痴ですか」
グラスのビールを一口飲んだ。
「いや聞いてよ。ちょっとじゃれたかっただけなんだよ俺は」
するとゴリラさんは話しながら一口分空いたグラスにビールを注ぐ。
ゴリラ主任は無意識にお酌している。
「可愛くて可愛くて仕方がないんだよお」
「幸せじゃないですか」
「そうなんだよお幸せすぎて困ってんだぁ」
アルコールが入っているせいか愚痴ではなく惚気を話したいようだった。
私はそのほうがよかった。愚痴よりも幸せな話を聞くほうが気を遣わなくて済む。
自然と笑顔になってゴリラさんの話を聞いていた。
「なんの話をしてるんですかあ?」
しば犬くんとウサギちゃんがやってきて、ウサギちゃんはゴリラさんの隣に、しば犬は私の隣に座った。しば犬くんも酔っているようで顔が赤かった。
帰りを送っていくという約束だったが、うっかり忘れられたようだ。
ゴリラ主任は若い2人が来てくれた喜びの礼にウサギちゃんのグラスにビールを注ぎ、次にしば犬くんに注ごうとしたが、しば犬くんはグラスの口を手で塞いだ。
「あ、俺車で来てるので」
そうなの?
「そうなの?」
ゴリラ主任と心の声が被った。
「はい。ウーロン茶飲んでました」
「そっか!えっとウーロン茶ある?」
ウーロン茶を探すゴリラ主任にしば犬くんは「気にしないで下さい」と止める。
その様子を眺めながらそういえばウサギちゃんの質問に答えてなかったと思い出す。
「ゴリラさんの奥さんの話をしてのよ」
「いきなりどうしたんです?」
「違うよおっ!はっはっはっ!」
ウーロン茶を注ぎ終えたゴリラさんにも聞こえたようで、否定しながら快活に笑った。
「猫の話だよ!アホウドリちゃんは奥さんの話だと思ってたの?」
そういえば先日、仔猫を飼い始めたと言っていた。
アルコールも飲んでいない私の顔が熱くなって、余りにも居た堪れなくなり、俯いた。
「もしかしてまた勘違いしてたんですか?」
年下のしば犬くんにも笑われた。
もう帰りたい。来るんじゃなかった。
「ゴリラさんゴリラさん見て下さい!これ!湯葉がありますよ!」
「え?湯葉?」
「美味しそうじゃないですか!湯葉!」
「ウサギちゃん湯葉好きなの?」
唐突なウサギちゃんの湯葉トークにゴリラ主任も戸惑っていて、私だけが窮地を脱したような安堵した心地になった。
「だって湯葉って変な食べ物じゃないですか~食べたことないですし~」
「そうかな?」
「気になるなら頼んでみるか!いやあ、ウサギちゃんも面白いなあ」
「どうせならかわいいって言って下さい」
流石ウサギちゃんだ。周囲を和ませ、自分も笑顔でいられる。卑下せずに前を向けている。
ウサギちゃんのように笑えたら愛想良く人付き合いにも悩まずに済むのに。
自分の魅力を最大限に活かして相手にも不快にさせない処世術を私にも分けてほしい。
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