第2話 水難  

村の男衆の後を追って裏山へ鹿狩りに同行する。

前に親父が僕に子供でも扱える小さめのナイフを与えてくれた。なかなか僕に似合ってる、お気に入りのナイフだ。

これで、鹿と戦うとか何かをするとか・・・そんなのではない。

ま、森の中で実ってる果物を切り分けたり皮むきをしたりするくらいだけどさ。


急に、先に登って行った男衆の声が・・・

「ヨーヘン! 魔鹿がそっちへ向かってる! 身を隠せ!」

山の上のほうから男衆の怒声がかけ下りてくる・・・

ちゃんと聞こえたが、遅いよ!~ もう僕の目の前に見えるでかい鹿が、僕めがけて物凄い勢いで山を下ってきてるし・・・

咄嗟に、少し横に避けた。


うっ! しまった! 足元が不安定だったようで、しかも片足をくじいた。そのまま急斜面をずり落ちて、ところどころ木々や岩などに体をぶつけて転がり落ちている。

<ズルッ!> <ズズズズ~~ ガシガシガシ・・・>


もう・・・どこが痛い!なんて騒ぎではない。どこもかしこもあちこち全部。

まだ意識があるだけ不思議だ。

でも、この下は確か・・・滝壺、しかも深かったよな・・・


最後に、出っ張った大岩に体をぶつけた。意識が半分以上飛んで・・・水に落ちた・・

<ドンドン・・・ドン!・・・ドボッ!>



<ゲポ! ゲホッ! ・・・グエッ! ウエッ!・・・>


ははは、生きてた! でも、体の痛みは半端ない。足なんて向きが違ってる。体の損傷がひどい・・・動けない。

幸い、そこは水中ではなく滝つぼから流れ出る小川の岸に上半身だけ出ている。

きっと、滝壺に落ちて・・・流されたのかな? ここまで?

ここは水深はまだ深くて流れは早い。急いで・・もう少し出なければ・・・

幸い、片手は動いたので、片手だけでズリズリと岸に這い上がった。半端ない痛みを引きずりながら。

生きていたけど、・・・ここまでか!~・・・気が遠くなってきた・・・




うう?~~~寒い!・・・・生きてるな・・・もう夜か?星が瞬いてる。

どれくらいこの状態だったのか知らないが、このまま下半身が小川に浸かったままでは・・・冷えすぎるし体がふやけるんじゃないのか?

幸い!? 両手を動かせる。それに脚も踏ん張れる。あれっ!? 

背中も、腰も痛みは消えてる。体が治ってる?・・・ようだ。

小川から這い出せた。

助かったんだ。

これもアレか? <耐性>ギフトのセイ? ま、分からない。


夜道、森を抜けるのはさすがに危険だ。

どこか、隠れる場所を探して歩き出した。

小川の近くではきっと寒いと思って、近くの林を見ながら小川から距離をとって下流方面へ下っていく。


見つけた!

大きな木だ、ちょうど枝ぶりが良さそうだ。

なんとか登って、枝の上に腰を据えた。適度に揺れるが、ま、折れることはないだろう。

一旦下りて、周りに落ちている枝を拾い集める。

それらを担いで、先ほどの場所、木の上まで戻って、なんとか拾ってきた枝を敷き並べて居場所を作った。

まるで、鳥の巣のようになった。




今夜はここでこのまま休もう。一応、落ちないように生きている枝を握りしめて・・・




目覚めた。

小鳥の囀りが聞こえる。まだ暗いけどそのうち夜明けだろう。

どうやら木から落ちなかったようだ。目覚めた時には、僕の手はを掴んでいたが・・・

下へ下りて小川で顔を洗った。

さて、村へ戻らねば!


道なき道、獣道っぽいところを、村のある方角を勘を頼りにひたすら歩く。



見えてきた、僕の村だ。


「おお! お前・・・ヨーヘンか? 生きていたのか!~ お帰り!」

門番さんが迎えてくれた。




「ただいま~ 母さん、只今戻りました!」




「まあ、ヨーヘン? どこへ言ってたのよ? 大丈夫?」

母さんは優しくしっかり両腕で僕を抱え込んで迎えてくれた。

どうやら、山から落ちた事故のことは聞いているらしい。

それから、3日も経っていて、今日が4日目の朝という。


僕が落ちた後は、父さんや村の男衆が滝壺やら付近を探し回ってくれたらしいが発見に至らず、どうやら僕は事故で行方不明、まず生きていないだろう・・・ということになっていたらしい。


「怪我はないの? どうしてたのよ、心配してたんだから・・・」

「母さん、御免。足を滑らせて山から転げ落ちて、どうやら滝壺に落ちたところまでは覚えているんだ。

そのあとは、目覚めたのは小川の中流のほうで、ソコまで流されたらしい。

手足、背中や腰に痛みがあって動けなくて、また気を失ってしまった。

でも次に目覚めたときには、怪我も良くなっていたので、大きな木の上に居場所を作って一晩野宿して、今朝そこを出て歩いて戻ってこれた・・・」

「まあ! でも良かったわ! 本当に・・・・」


母さんを泣かせてしまった。


親父も出てきて、無言で僕の頭をワシワシしただけだった。顔は笑っていたような・・・



朝飯の残り物を食べて、水を浴びてから母屋の自分の部屋で転がった。



・・・どうなってるんだ? もう二回も死にかけた・・・ギフトのセイなのか?



どうやらあのまま眠ってしまったようだ。

もう夕飯の時間らしい。腹が減った・・・

部屋を出ていくと、おばばがやってきてた。僕の無事を知って顔を見に来たらしい。

ぐっすり眠っていたので、そのまま起こさないで待っていてくれたようだ。



「ヨーヘンよ、お前は・・・不思議とまだ生きておったか!~ 良かったではないか」

「ああ、どうやら、僕は簡単には死なせてくれないのかな? 不思議だよ」

「お前、ギフトをもらってから確認はしているのか?」

「えっ、何だそれ?」

「なんだ、誰も教えてやってないのか?」



親父は他所を見てるし、かあさんもバツが悪そうにしてるし・・・


おばばが教えてくれたよ、自分のギフトの状態を知りたければ、ただ、自身に問いかけてみれば良いと。

なんだよ! みんな訳のわからないギフトだった衝撃で? そこまで口を閉ざしてしまってたのか?

ま、良い。あとで部屋で確認してみよう。



おばばが言うには、人前で確認するようなものでも無いし、結果を誰にも知らせてはいけないそうだ。自分のギフトというものは自分で理解して付き合っていくものだと。

他人にアレコレ言われる筋合いのものではないと。



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