第25話 さくらテレビ買収計画

「総務大臣の平山夏生ですが、電波法改正推進委員会きってのタカ派なのはご存知ですか?東京ジェノサイド以前の話にはなりますが、タレントやスポンサーへの会社ぐるみの性接待疑惑で、さくらテレビは放送免許取消し寸前までいきましたが、それを止めたのは、平山夏生を含めた旧通産省の亡霊達なんですが、御存じでしたか?」

「ああ、知ってるよ。だけど結構じゃないか、テレビ局が破産となったら大ごとだよ。失業者が大量に溢れ出るじゃないか。お台場だけじゃなく、地方に至るまで路頭に迷う連中は大勢いるだろうよ。それで…何が言いたい?」

「幣原さん、私もあなたと同じ思いを共有しているんです。この国は生まれ変わるべきだ。自らの足で、自らの智慧で、国際社会と対等に渡り合わなければならないと思っています。私たちの祖国を作り上げるのは、国民の純粋な心であって権力ではない。幣原さん、日本はいつまで敗戦国なんですか!?あなたの力を貸してください防衛大臣として。共に未来を創っていこうではありませんか!?」

「なるほど…なるほど…厄介なのはマスコミかな?」

「そうです!」

「なるほどねえ…」

「現在テレビが占領している帯域を含めて、電波オークション導入の法案を検討中です。その為の平山起用ですが、これはあくまで隠れ蓑に過ぎない。我々は、さくらテレビを買い上げて、国営放送へ切り替えたいんです」

「NHKはどうする…」


倉敷は勿体ぶりながら、腕組みをした。

幣原は完全に倉敷の策略に陥ったのだ。

それは、底なし沼のように深く、粘着質を持って人の欲望を刺激し開花させてしまう術であった。


「なあ、倉敷くん…」

「はい」

「ゼロからのスタートってわけだね」

「勿論です」

「あの焼け野原を、君たちは知らないだろう…大戦後、この国は焦土と化したんだよ…空を見上げるとだね、あいつらの攻撃機が飛んで行くんだ。爆弾落とした後にだね、グワアーっと音を立てて飛んで行く。その機体にはだね、裸の女の絵やふざけたキャラクターが描かれてる訳だ!」

「はい…」

「これがアメリカなんだよ、私は痛感したね…」

「…」


倉敷は沈黙を貫いた。

幣原は、体勢を整えながら笑みを浮かべて、


「いやあ、なかなか気に入ったよ」

「有難うございます」

「今度はGHQなんざいない訳だね、我々が再建する訳だこの国を」

「おっしゃる通りです!」


幣原は立ち上がり、壁画の妖精たちを指でなぞりながら言った。


「東京ジェノサイドが幸いだったって訳だね。予期していた展開ってことかな?」


嫌悪される静寂とは、こういう空気なのだろうかと倉敷は考えた。

其々の時間軸が、人生をあらぬ方向へと誘う恐怖に、身震いしながらも酔い痴れていく。

これが人間の業なのだ。

ならば流されつつも、従順に見届けなくてはなるまい。

倉敷は、


「御冗談を…」


と、笑みを浮かべて言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る