第13話 地面師たち

ホテルの外からは、拡声器を通じて甲高い女性の声が響いていた。

その一言一言に、拍手や歓声が沸き起こっている。

警察官の声も聞こえる中で、窓から山下公園を見下ろしていた、堀克利が呟くように言った。


「カオスですね、横浜は東京みたいにはならない。知ってますか津田さん? 横浜が遷都に名乗りをあげている事を」


黒縁眼鏡にサスペンダーが似合うふくよかな体型。

堀はニッコリと微笑んで、椅子に座る津田の前に腰掛けた。

その両隣には弁護士の中原拓と、旅館・時空屋女将の代理人、井上真里が座っていた。

やや緊張した声で、津田は堀に答えた。


「もちろん知ってますよ。そうなれば良いんですけどね。我々としては願ってもないチャンスですから」

「さすがだなあ、津田さんはやっぱり違う、時代をしっかりと見極めていらっしゃるようだ」


堀は、額の汗を拭いながら言った。

弁護士の中原は、冷静さを装いながら、


「始めましょか、ま、あいにく世間はやかましいですけど、此処ではそんなもん関係ありません」


中原の引きつり笑いに、津田も笑って見せた。

外からは、シュプレヒコールが続いている。


「東京区反対!我々には自由に行動できる権利がある!民衆主義は何処へ消えた!槇村内閣に退陣を求める!聞け!民衆の声を聞け!東京はまだ死んではいない!聞け!国民の意志と叫びを聞け!」

「違法な集会は直ちに解散せよ!君たちは手続きをふんではいない!繰り返す!君たちは違法なデモを起こしている!私達が実力行使に出る前に直ちに解散しなさい!」

「国家ぐるみの犯罪を我々は断罪する!」

「主催者は直ちに指示に従いなさい!直ちに解散するように!」

「東京はまだ死んではいない!」

「繰り返す!解散を要求する!」


阿鼻叫喚の渦巻く世界は、津田の脳裏に破壊と再生の未来図を描かせていく。

それは、昭和の学生運動と似ていた。

堀が言う。


「おっかないですね。時代遅れだ・・・」


と。


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