⑪✧——けっとう!

 ………お昼どき。あたしは、『路地』のゴミおきばでべんとーをあさって公園に向かった。すてられたカーテンで身をかくし、ベンチにすわる。今日は園もお休みだから四天王には〝チビ払い〟をたのんでおいた。いざって時にジャマされたくないし……むかんけーのヤツにあたってもわるいから。

 じっとアルンをまっていると、まず先に四天王たちがもどってきた。


「どう?だれか来そう?」

 あたしはリョーちゃんにたずねてみる。

リョーちゃんは黒いショートカットをハネさせると、げんきにおやゆびを立てた。


「ぜんぜんだよ!アニキのいかつさ キいてっから、ちゅうがくせーもたぶんこない!」

「あんがと。これアメね」

「やった~!」


 リョーちゃんがバリバリとアメをほおばれば、タクが「オレには!?」なんてきいてくる。

「スケッチブック、ちゃんとわたしたよね。」

「おう。」

「なら次のきゅうしょくでいい?アメのストックあれだけなの。」

「もちろんだぜ!あ、トマトはかえすかんな!?」

「すきにして。」


 ガッツポーズを取るタクをよそに、あたしたちを大きな声がよびつけた。基地のてっぺん、すべり台上に立ったオカッパのメイコだ。

「みんな~!アルン来るよ~~!」

 メイコはそうがんきょうをポケットにしまうと、のこりの四天王に集合をかける。


「ほんじゃな、ミミ!きばれよ!」

「ウチら いがいに やられんでよ!」

「わぁーってるよ。ほら行った行った!」


 タクとリョーちゃんに手をふれば、あたしの前にはミョン太だけがのこった。ミョン太はヒものついた水ふうせんを さしだすと、「ぼくははんたいだ」とのべてくる。

「水でっぽうの方がいいよ。もう そうびも かえされちゃったし……。」

「忠告ありがとさん。でも おさまりつかないんだ、わるいね。」


 ミョン太からふうせんを受け取ると、あたしは それを むなもとに くくりつけた。ミョン太はながい黒かみをひるがえすと、あたしに手をふってさっていく。

「どっちもケガしないでね!」

 そうして少しの間もおかず、アルンが公園へやってきた。


「え~っと……。このカドをみぎ……」

 あたしから見て真っ正面、アルンは手もとの『端末』を見つめながら公園の門をくぐりぬけると、そのかおを上げる。バチっとしせんが あったので、あたしはベンチから立ち上がって話しかけた。


「うそつきでも やくそくはやぶらないんだね。」

「だって、うそつきじゃないんだもん。」

「まだゆうか。ガンコなとこだけは良いけれど——そのシラ、いつまで きれるかな!?」


 あたしはこしをおとしてポッケのじゅうに手をかける。まとっていたカーテンがぶわりと広がって、みぎむねに つけたふうせんが 外気にふれるのが よくわかった。


 あたしがタクんちから用いしたのは、カグヤ社製ダブルイーグル——の、モデルガンだ。『飛距離』25m以上、クラスナンバーワンの『命中精度』はイチバンのあたしにこそふさわしい。 ぎんいろは、今やあたしのスカートのポッケにおもおもしく 下げられていた。


 アルンは身がまえる あたしに目を見ひらくと、思い出したように端末をおいて こしのポーチからじゅうを ぬいた。……やったことないんだろな。こうゆうのは、はじめる前はぬかないもんだ。みけんにマユをよせて アルンのじゅうをよく見れば……。どうゆうワケか、アルンもあたしとおなじものを もっている。


「なんでそれを……」

「あたしのお父さんが作ってるから。」

 あたしはまたムカつきそうになったけれど、しんこきゅうしておさえつけた。……ガンナーはクールでなくちゃ。


「そ。ところでルールは知ってる……みたいだね。」

 アルンのむねには なわとびでピンクの水ふうせんが くくられている。

「うん。タクくんが言ってた。」

「それじゃあ『賭け』るよ。」

「かける?」

「あたしが勝ったら、あんたのBBだんは もらう。あんたが勝ったら、いつもの『与太話』をしんじてあげるよ。」

「ほんとう!?」


 アルンのひとみに『覇気』がやどった。……それでも、あたしの方がつよい。あたしはきのうひろった10円をもち出すと、一言つげてそれがおちるのをまった。

「これがおちる時、あんたは負けるよ。」


————カン。


 ツルツルの地めんにおかねが落ちる。基地にいる四天王たちが そろって息をのんだけど、あたしはそれらを見とどけず 音ではんだんした。そうして、おかねの音とまったくどうじに 空気に はれつ音がひびく。アルンのしろいスモッグは まっ赤にそまって、ふうせんだったピンクのかすは ゆらめきながら 地面におちた。基地が『歓声』を上げるとともに、あたしはすわりこむアルンに ちかづいていく。

 ……あたしの勝ちだ。


「あれ?」

 アルンは何がおきたかも分からないようすだった。ただ自分のふくと あたしを みくらべて、やっと理解したのか おちたふうせんカスをあつめはじめる。そのままカスをポッケにしまいこむアルンに、あたしはつめよってひだり手をだした。


「あ!ありがとう!」

 アルンが手をつかんでくるので、あたしはそれをはらってから もう1どさしだす。

「ちがうでしょ。……BBだん!」

「あっ、そっか。むむ……」


 アルンはふふくながらもポケットをさがし、アオくてきれいな丸をあたしに わたした。やくそくにマジメなやつだ。そういうところだけは良いんだけどな……。あたしはポケットにアオをしまいながら、基地から四天王が下りてくるのを見る。


「ミミすげ~~!」

「おじょーさん あいてじゃ ミミがかつっしょ。」

「ええー?メイぜったいアルンちゃんだとおもうー。」

「2人ともケガしてない……?だいじょうぶ……?」


 あたりが一気に にぎやかになるけれど、あたしの気もちは はれないままだ。……アルンは、どうしてあたしを うたなかったんだろう。あいうちだって ねらえたはずなのに。あたしには、アルンがじゅうを うったようには見えなかった。


「……あんた、なんで あたしを うたなかったの。」

「え?」


 ちょくせつきいてみる ことにすれば、アルンは首をかしげるばかりだ。あたしには それが分からなくて、かさねて アルンに問いかける。

「BBだん、たからものなんでしょ。とるよってゆったでしょ。……なんで もっとほんきにならないの?!」

「ミ、ミミちゃんおちついて……かったんだから いいじゃない。ね?」


 ミョン太がなだめてくれるけど、これじゃあ勝ったかんじがしない。ムカつきながらアルンにきくと、アルンは首をひねってからあたしにこたえた。


「人に『撃』ったら、ダメだから。」

「……はぁ?」

「じゅう、人に撃ったらだめなんだよ。へんなとこあたって、いたいきもちにさせたくないし。」


 ……なにそれ。あたしのおなかのそこで、ふつふつとお湯がわくのがよく分かる。

「きのうはゴメンね。すなだって、ホントはすごくイタイのに。アルンかっとなっちゃって——」

「なめるな!!」


 あたしはアルンのむなぐらをつかんで、おでこをつきあわせた。『視界』のはしで リョーちゃんが目をそらしてたり、タクがまたかーとあきれていたりするけれど……どうでもいい。口角のあわがとんでこうと、そのぜんぶが今はかんけいない……!


「あたしがきょうのために、どれだけやったと思ってる!『敵』になさけなんていらないんだよ!」

「ミミちゃんは『敵』じゃないよ。アルン、いまはそう思うもん。」

「『敵』だよ!あたしにとってのあんたは!あたしは今日、ほんきであんたをブチのめしにきたんだ!なのにあんたといったら、何もうたないで__」

「『撃』ったよ。」


 アルンは力づよく『断言』した。

 ……うった?何を。あたしは何もみちゃいない。ふうせんもわれていない。アルンのえりから手をはなせば、あいつはあたしのうしろ……ベンチの方に指をさした。


「……あれがなんだって、ゆって……。」


 あたしの視界がズームする。おちたはずの10円玉が、ベンチの上にのっかっていたのだ。四天王もそれが分かったのか ざわついて かおを見あわせる。そんなどよめきも どこふく風で、アルンはへいぜんと あたしにつづけた。


「わたしね、アレを撃ったの。」

「……は?」

「落ちたら負けるっていわれて、それはイヤだったから。だからね、はじいたの。」

「……BBだんで……?」

「そうだよ!ラッキーだったなー。」


 ……あたしはまぐれに負けたのか?

 そんなの、『勝ち負け』どころの話じゃない。ムカつきばかりがましていく。

「でも水ふうせんはわられちゃったから、けっきょく負けちゃったね。」

「……何が負けなもんか。」


 あたしはアルンにアオいBBだんを投げると、そのまま みんなに背を向けてふみだした。「どこ行くんだよ」、とタクがしゃべった気がする。……でも、止まる気にはなれない。とおざかっていくアルンの声も、今は耳ざわりでしかたなかった。


「ミミちゃん!?これ、ミミちゃんの……」

「いらないから!」 あたしはアルンにさけびかえす。


 こんな形でもらっても、アレはあたしの〝たからもの〟にはならない。……できない。

 あたしは『勝者』じゃないし、そもそも ここに『勝者』は居ない。だってまだ、コインは地面におちてないんだから。

 それでも『敗者』が居るとしたら……それはきっとあたしだけ。

 あたしは くちびるをかんで 門をくぐると、すきだった公園をあとにした。

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