第14話:必殺技

「モンキームーブメント!」


 八百鬼は必要もない大声で叫んでから、必殺技を使った。

 子供が大好きなヒーローには必殺技が必要で、技の名前を叫ぶのが御約束だから。


 信仰力を得てルクス・デウスを滅ぼす力を得る為には、心の汚れた大人たちを対象にするよりも、純真無垢な子供たちの心をつかむ方が良いと考えたのだ。

 その為に、先に斃したニホンザルモンスターから得た技能を使った。


 使ってみて、八百鬼は自分が間違っていたと分かった。

 敵から得た技能は、敵モンスターが使ったのとは全く違っていた。

 使う者のレベル、実力に応じて破壊力や速さが変わるのだと分かった。


 八百鬼の使うモンキームーブメントは、ニホンサルボスモンスターが使った技とは似て非なるモノ、月とスッポンくらい違っていた。


 八百鬼の使ったモンキームーブメントは、ライブ配信を観ている人たちの目には映らないくらいの速さで、同時に圧倒的な力があった。


 八百鬼が敵を全滅させて元の場所に戻って、ようやく視聴者の目に映った。

 その時には、広間にいた敵102体が皆殺しになっていた。


「ありがとうございます、皆さんの応援のお陰で勝つ事ができました。

 皆さんの応援がなければ、必殺技を使う事ができませんでした。

 これからも応援よろしくお願いします」


 八百鬼は心からお礼を言った。

 配信を始めて10日も経っていないのに、世界5位にまで登録者が増えた。


 登録者数1億4328万で、ライブ視聴者3億8937万人に爆増していた。

 初配信から毎日2000万人ずつ登録者が増える勢いだったからだ。


 世界にはいろんな国があるから、ダンジョンを国が統制していない事もある。

 ダンジョンに入って動画投稿やライブ配信している民間人も無数にいる。

 だがその多くが、無残に殺されて終わるか逃げる配信ばかりだった。


 八百鬼の配信だけが、モンスターを圧倒している。

 人間が神仏神仙の神判に挑んで勝てる、そんな配信は八百鬼だけだった。

 日本人だけでなく、世界中の人から視聴されるのは当然だった。


 しかも八百鬼は常に視聴者に対して感謝を口にしていた。

 視聴者のお陰で力を得て勝てると言い続けていた。

 頭から全部信じている人は少ないが、感謝されて気分を害する人は極少数だ。


「次の広間に向かう前に少し休憩させていただきます。

 次のライブ配信は30分後にさせていただきます。

 ライブ配信にお付き合いくださった人たちも、どうか休息してください。

 休息など不要な方は、ダンジョンに挑戦される時の手本動画を観られてください」


 八百鬼はそう言ってからライブ配信を切って戦闘糧食を食べた。

 自衛隊から譲ってもらったレトルトタイプの戦闘糧食、チキンのトマト煮、白飯、コーンスープを食べて、トイレも済ませた。


 その間全く何もしていない訳ではない。

 死霊の内、手練れの10人は護衛に残して近くに置いたが、他の91人は次にライブ配信を行う広間に派兵していた。


 派兵された91人の死霊はオラウータンモンスターと戦う。

 八百鬼が安全確実に戦うための索敵と同時に、死霊自身のレベル上げのために、死力を尽くして戦う。


 死霊たちが戦うオラウータンモンスターは、八百鬼がモンキームーブメントで瞬殺した広間のオラウータンモンスターよりも少しだけ強くなっていた。

 とは言っても八百鬼が本気で戦ったら瞬殺できる相手だった。


 だが簡単に勝ってしまうと八百鬼の本当の目的が達成できない。

 信仰力を得てルクス・デウスを斃せるだけの力を手に入れるには、魅せる戦いをする必要があるので、ヤラセ戦闘をしなければいけない。


「お待ちくださっていた方々、ありがとうございます。

 これから次の広間で戦わせていただきます。

 どうかまた応援をお願いします。

 皆様の応援が、私に強大なモンスターと戦う力を与えてくれます。

 それでは、生き残れたらまたお礼を言わせていただきます」


 八百鬼はカメラに向かってそう言うと広間の中央に歩いて行った。

 先に戦っていた死霊たちは、全員カメラの画面から外れた場所で戦っている。

 八百鬼は、死霊たちが先に出現させていたオラウータンモンスターと戦う。


 この広間のオラウータンモンスターは、怪力を生かして長巻を使っていた。

 刀と薙刀の中間のような長巻は、江戸時代には戦道具とされて武士でさえ所有を禁止された、とても破壊力のある武器だ。


 その長巻を怪力のオラウータンモンスターが自由自在に振るうのだ。

 並の人間が普通に打ち合えば、力負けして武器を吹き飛ばされるか、武器自体が破壊されてしまう。


 レベル101の八百鬼ならば普通に打ち合えるのだが、いや、打ち合う事もなく瞬殺できるのだが、それでは見せる戦い方としては全く意味がない。


 八百鬼は苦戦しているように見せかけるために、先の広間で手に入れた総アルミニウム製の棍棒で打ち合って、力負けして棍棒を弾き飛ばされる演出をする。


 更に長巻を振るうオラウータンモンスターに攻め込まれて、広間の壁際にまで追い込まれ、絶体絶命の危機に陥ったように見せかける。


 八百鬼は壁際に立つ事で突きしか放てないように誘導した。

 放たれた突きを、顔を斬られて血が流れるようなギリギリで避ける。


「居合、横雲」


 避けるだけでなく、オラウータンモンスターの横をすり抜ける時に大声で技名を叫んで、居合で横腹に山刀を放って胴を真っ二つに斬り裂いた。


 追い込まれていた壁際から広間の中央に出るまでに、多くのオラウータンモンスターの攻撃をギリギリで避けて視聴者をハラハラドキドキさせる。


 オラウータンモンスターの攻撃をを避けるために倒れたように見せかける。

 止めを刺しに来たオラウータンモンスターに八百鬼が殺される、と思われた時。


「居合、稲妻」


 八百鬼は立て膝をついて立ち上がりながら、オラウータンモンスターの手首を斬り飛ばし、返す刀で脳天唐竹割りにした。

 ただ、尻まで斬り下げるのではなく、頭だけで刀を引いて飛び下がる。


 八百鬼がいた場所に他のオラウータンモンスターが長巻を振り下ろす。

 視聴者たちには追いつめられてギリギリで避けているように観える。

 だが実際には、視聴者を引き付けるための八百鬼の演出だ。


「皆さん、このままでは八百鬼が殺されてしまいます。

 どうか皆様の応援お願いします。

 皆様の応援が八百鬼に力を与え、必殺技を使う力となります」


 戦国武将の1人、前田慶次がアナウンサーのように言う。

 ライブ配信で信仰力を得るために、誰かにアナウンスさせようと八百鬼は考えた。

 

 最初は地獄に落ちている俳優やアナウンサーにやらせようとしていた。

 だが、貴重な戦力である死霊を1人だって無駄にできない。


 だから召喚した戦国武将や剣豪の中から口達者な者を選んでやらせてみた。

 口下手な戦国武将が多い中で、前田慶次がずば抜けてアナウンス力があった。


 戦国時代の言葉や話し方では現代に通用しないのだが、前田慶次は直ぐに現代の言葉と話し方を会得して上手く話すようになった。


 前田慶次が実況している間も、八百鬼は何度も危機を演出する。

 追い込まれては居合の拳取、岩浪、八重垣などで斬り抜ける。


 斬り抜けはするが、時間をかけて斃すので次のモンスターが出現する。

 だから一向にオラウータンモンスターが減らず、常に102体いる。


 視聴している子供たちが一生懸命応援してくれている。

 いや、子供たちだけでなく大人たちも思わず声がでるほど熱中している。


「皆様の応援のお陰で必殺技を放てる力が得られました、モンキームーブメント」


 八百鬼は視聴者を意識して、飽きられる前に必殺技を放つ。

 前回同様、視聴者には全く見えないくらいの高速機動でオラウータンモンスター102体を全滅させて、広場中央に立ち止まる。


 視聴していた人たちに再び八百鬼が見えるようになった時、全オラウータンモンスターは頭から尻まで縦割りにされたり、胴を横割りにされていた。

 それを観た視聴者たちは老若男女問わず大歓声をあげていた。


「ありがとうございます、皆様のお陰でモンスターを斃す事ができました。

 皆様が応援してくださらなかったら、私はここで死んでいたかもしれません。

 本当にありがとうございます、これからも応援よろしくお願いします」

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