第8話:改定
卑怯下劣な糞神ルクス・デウスが考え抜いた必殺の罠だった。
だが、八百鬼が相手では全く意味がなかった。
レベル40を想定した絶対に殺せる罠だったが、八百鬼はレベル100だ。
単に数値だけのレベル100ではなく、実戦の修羅場をくぐった100だ。
ゴブリンたちが出現した瞬間に、敵の職種と装備を確認している。
即座にどうすれば勝てるのか、生き残れるのか、判断して動いている。
だから火魔術の着弾場所に居残るような愚かな真似はしない。
死霊たちの先頭を切ってゴブリンのいる場所に斬り込む。
ジュッバ、シュッパ
飛んで来る火魔術を左右の山刀で叩き斬って霧散させて駆ける。
八百鬼だけでなく死霊たちも火魔術を斬り叩き霧散させていく。
普通ならレベル18以下の死霊ではレベル40の火魔術を斬り落とせない。
だが死霊の元となっている人間が桁外れに強いから不可能が可能になる。
ドーン、ドーン、ドーン、ドーン
だが流石にレベル1の死霊ではレベル40の火魔術を叩き落せない。
直撃を受けて地獄に強制召還されるが、これが悪質な罠である証拠になった。
「卑怯下劣な糞神ルクス・デウス、これが公明正大な神判だというのか?!
性悪な私情で人類を滅ぼすのならそう言え!
俺の前に出てきて正々堂々と戦え憶病者!」
【おのれ、矮小な人間如きが偉大な我に対する悪口雑言、絶対に許さん】
《許さないのは我の方だ、ルクス・デウス、神仏の約定を何と心得る!》
【我は約定を守っている、定められたレベルと数を守っている】
《八百鬼以外は絶対に逃げられない転移と同時の攻撃は神判とは言わぬ。
出現した時に多数に致死魔術を放つなど、虐殺としか言えぬ。
そのような卑怯な罠を放つ者を神仏の座に置いておくことは許されぬ。
ルクス・デウス一派は、神の座を剥奪して追討する》
【まて、まて、まて、少し厳しくしたかもしれないが、他意はない】
《他意はないだと、殺意がなくて2度も3度も卑怯な罠を仕掛けん。
本当に他意がないのなら本性が腐っているからだ。
人類の神判よりも先に、お前たちの方が神判されるべきだ》
【そんなことはない、我は公明正大な神だ、誓って他意はない。
今回の件は神に相応しくないというのなら反省して2度とやらない】
しばらく黙って聞いていた八百鬼がルクス・デウスの卑怯を更に暴露する。
「閻魔大王、これを見てください、使い捨ての魔法陣と魔石です。
レベル10位程度の魔術師に、レベル40の魔術を使わせる卑怯な罠です。
こんな罠を仕掛けたら、人類は絶対に神判を勝ち残れません。
これが神の行う公正な神判と言えるのですか」
【矮小下劣な人類は黙っていろ!】
《そんな姑息な罠まで仕掛けていたのか、恥を知れ恥を!
そもそも人類を矮小下劣と決めつけるお前に神判をする資格はない。
いや、お前こそが矮小下劣で、神仏の名を汚す存在だ。
ルクス・デウスに与する奴は名乗り出よ、滅ぼしてくれる》
閻魔大王の本気の怒りにルクス・デウスに与していた下級神は恐怖した。
ルクス・デウスに味方して人類を滅ぼした後に、自分たちの都合の良い生物を進化させようと思っていたが、それも自分たちが神でいられての話だ。
【今からルクス・デウスが神に相応しいかの神判を行う。
ダンジョンは、我が新たに人類への神判に相応しい物に改める。
それまでは先に話し合った通りにする、八百鬼は好きにやれ】
「ありがとうございます、閻魔大王」
八百鬼はルクス・デウスが神仏の神判を受けている間にダンジョンで戦った。
圧倒的な強さを得るためにひたすらレベル上げをした。
(モンスターが弱過ぎる上に、数も少な過ぎる。
こんな状況では、腐っても神であるルクス・デウスに勝てる力は得られない)
そう思った八百鬼だが、他にやりようもない。
ひたすら表向きのレベルに合ったゴブリンを斃して表面上のレベルを上げる。
★★★★★★
《我は閻魔大王である、ルクス・デウスが創ったダンジョンの神判を変更する》
ルクス・デウスが八百鬼に卑怯下劣な罠を仕掛けて失敗した翌日、閻魔大王が人類にメッセージを送った。
《我を含めた地獄10王は、死んだ人間を裁いて罰を与えて来た》
多くの人は地獄で人類を裁くのは閻魔大王1人だと思っているが、実は違う。
人類の裁判と同じように、1人が裁くと間違いや恣意で罪が決まる可能性がある。
だから日本は三審制を採用しているが、地獄でも十審制を採用している。
《これまでは、人界には極力手出ししないようにしてきた。
だがこれからは、悪事を繰り返せないように、生きている間に裁くことにした。
何故なら、人類が神仏を恐れず敬わず悪事を重ねるようになったからだ。
だからルクス・デウスたちの神判を認める神々が増えた
もう2度とそのような事が起こらないように、我ら10王が介入する》
「なんてことだ?!」
八百鬼には完全な不意討ちになった。
人類を滅びから救うためには、ルクス・デウスを滅ぼせば良いと思っていた。
閻魔大王や天之常立神は味方だと思い込んでいたが、違っていた。
「今の閻魔大王のお告げについて総理と話したい、連絡を取ってくれ」
八百鬼は内閣の役人から渡されたスマホで総理に連絡を取ろうとした。
今後の事について日本の最高責任者と話し合うべきだと思った。
だがこんな緊急事態に、ただの民間人が総理に連絡できるわけがない。
総理は大臣たちと今後の事を話し合わなかればならない。
八百鬼は仕方なく創り変えられたというダンジョンを調べる事にした。
「樫原1等陸佐に自衛隊の訓練をしたいと伝えてくれ」
「はっ、直ちに」
八百鬼はゲートを当番警備をしている自衛官に話しかけた。
内閣官房参与として、第36普通科連隊第2中隊をダンジョンで訓練する権限を与えられているので、調査とレベル上げを同時にやろうとした。
「前回索敵を行わなかった第3小隊と第4小隊が待機中です。
彼らに実戦訓練を兼ねてダンジョン探索させます」
中隊本部となっているビルの1室から急いでやって来た樫原1等陸佐が言う。
ダンジョンを完璧に封鎖するためにはゲート近くに駐屯するしかない。
小さな市の狭い駅前ロータリーに出現したゲートだ。
駅前のロータリーを占拠された市民は、自衛隊の駐屯と警備で多少は生活に不便を受けていたが、糞のような連中以外は自衛隊に好意的だった。
八百鬼の動画でダンジョンのモンスターが危険だと分かっていたからだ。
あんなモンスターがダンジョンから溢れてきたら殺されると分かっていたからだ。
ろくなビルもマンションもない駅前では、中隊の拠点を置ける場所が少ない。
複数の空きマンションや空き家を借り受けて自衛隊員の寝る場所を確保していた。
「死霊召喚、宮本武蔵、佐々木小次郎、塚原卜伝、柳生石舟斎、柳生十兵衛、柳生宗冬、柳生連也斎、本田平八郎、榊原康政、前田利家、前田慶次、柴田勝家、加藤清正、福島正則、渡辺守綱、渡辺勘兵衛、可児才蔵、後藤又兵衛……」
八百鬼はダンジョンに入って直ぐに死霊召喚を行った。
「本当に死んだ人間を呼び出せるんだ……」
自衛隊に入隊して基礎的教育を3カ月、教育隊の3カ月を終えて2等陸士に成ったばかりの若者が思わずつぶやく。
「黙れ、油断していると死ぬぞ」
即座に教育係の陸士長に叱責された。
「申し訳ありません!」
まだまだ自衛官としての基礎が成っていない2等陸士が即座に謝る。
教育隊をでて6カ月自衛官として勤めて1等陸士、更に1年間勤めて陸士長だ。
陸上自衛隊最初の任期は1年9カ月で、2期目は2年と成る。
2期目からは選抜試験に合格すれば「曹」さらには「幹部」への道が開かれる。
昇任試験の成績が良ければ、最短2期目2年で陸士長から3等陸曹に任官できる。
努力すれば昇進が可能な自衛隊だが、規律と訓練が厳し過ぎた。
全体の新人採用想定人数の充足率が51%、2等陸士の充足率が30%では、幾ら規律の厳しい自衛隊でも多少は優しくなる、鉄拳制裁などが減るのも当然だった。
「すごい、あっという間にゴブリンを皆殺しにしている」
最初の1人は黙ったが、他の2等陸士が思わず口にしてしまう。
それくらい八百鬼と死霊たちの戦い方は凄まじかった。
「バカモノ! お前たちも今からモンスターを斃すんだ、気を引き締めろ!」
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