第11話「調停の幻」

 2025年9月20日、ユーラシア人民連合がソ連の遺志を継いで勢力を拡大する中、かつて第三世界と呼ばれたアフリカとインドが事態の収拾に乗り出した。彼らは冷戦時代の中立性を引き合いに出し、国際調停を試みて世界を救おうとした。しかし、その努力は虚しく崩れ去った。私はモスクワの廃墟から、遠くの希望が消える瞬間を目撃した。


 アフリカ連合(AU)の議長、ナイジェリアの大統領ボラ・ティヌブは、アディスアベバで緊急サミットを開催。「我々は戦争の犠牲者だ。赤と自由の衝突を止める」と訴えた。南アフリカ、エチオピア、ケニアが中心となり、平和使節団を結成。インドもまた、首相ナレンドラ・モディの指揮下で動き出した。「非同盟の精神で、調停の橋を架ける」と彼は宣言し、アフリカと共同で連合国と自由勢力の交渉を提案した。


 9月25日、調停が始まった。使節団は北京でユーラシア人民連合の李強と会談し、東京で日本の佐藤真理子や極道の司忍と、アメリカでエリザベス・ハドリーやネイビーシールズのマイク・デービスと対話した。アフリカは資源提供を餌に停戦を求め、インドは技術支援を約束して緊張緩和を促した。ニューデリーで開かれた和平会議では、アフリカの太鼓とインドのシタールが響き合い、一瞬の希望が灯った。


 だが、調停は早々に暗礁に乗り上げた。連合の李強は冷たく言い放った。「我々の理想は妥協しない。アフリカもインドも、所詮は資本主義の手先だ。」彼は中国の経済力とモンゴルの機動力を背景に、調停を拒絶。逆に、アフリカの資源を「赤いユーラシアの糧」と見なし、圧力を強めた。一方、日本の極道は「外野の口出しはいらねえ」と吐き捨て、アメリカのKKKは「第三世界に我々の魂は分からん」と嘲笑った。


 10月1日、調停の失敗が明確になった。アフリカ使節団がシベリアに派遣されたが、連合のトゥヴァ部隊に拘束され、交渉は決裂。インドが提案した中立地帯での会談も、連合軍のカザフスタン騎馬軍が国境を越えて侵攻し、白紙に帰した。アディスアベバではティヌブが嘆いた。「我々の声は届かない。歴史が繰り返すだけだ。」モディも沈痛な表情で、「力なき調停は無意味だ」と認めた。


 10月5日、連合が報復に出た。中国のドローンがアフリカの鉱山地帯を爆撃し、カザフスタンの戦車がインド国境に迫った。アフリカ連合は内部分裂を起こし、南アフリカが中立を宣言して離脱。インドは軍を動員したが、連合の物量に圧倒され、防戦一方となった。第三世界の夢は、赤い嵐と自由の刃に挟まれ、粉々に砕けた。


 日本では佐藤真理子が言った。「調停など幻想だ。我々は戦うしかない。」アメリカのデービスも頷いた。「アフリカもインドも、結局は自分の足で立てなかった。」連合の李強は勝利を確信し、「第三世界は歴史の傍観者に過ぎない」と嘲った。極道、空挺団、KKK、シールズは再び武器を手にし、連合との最終決戦を覚悟した。


 10月10日、世界は再び戦火に包まれた。アフリカのサバンナに爆音が響き、インドのガンジス川に血が流れた。連合軍はモスクワからシベリアを固め、日本海と太平洋で艦隊を展開。自由勢力は東京とワシントンで反攻を準備したが、調停の失敗が士気を削いだ。私はモスクワの廃墟で、遠くの炎を見ながら思った。第三世界の善意は、力なき叫びに終わり、世界を救えなかった。


 赤と自由の戦いは続き、調停の幻は風に散った。

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