怖い話短編集(超絶気まぐれで上げます。)
ぷんしる
死似華留ラムネ
最近噂の駄菓子屋さん、駅前の大通りを抜けた脇道の3本目。そのずっと先にある古ぼけたようなそれでいて新しいような不思議な場所。そこではちょっぴり面白いものが買えるんだって。おかしなお菓子だなんて苦笑を溢したけど手に持ってるこれを見たらそう思わざるを得なかった。『死似華留ラムネ』そう昭和風なレタリングで書かれた包装のお菓子。死だなんて言葉に恐怖を覚えてしまうけれど裏には『死にたいと思うそこの貴方に、きっとこれを食べれば留まれるハズ』だなんてメッセージが添えられているならばきっと悪いものじゃないんだろう。ラムネを2個手に取って会計に向かう。店員のおばあさんはふひひ、と不気味に笑っていた。
家に帰ってポケットから早速ラムネを取り出してみる。一体どんな味がするのだろうか、死ぬのを留まらせるってどれほどのものなんだろうと好奇心で満ちていた。包装を剥いで中からピンク色のラムネを取り出し一思いに噛み砕く。口の中でそれらが溶解し、舌が甘ったるいそれらを知覚した瞬間に意識が飛ぶ。
初めに感じたのは首筋に当てられた刃物の冷たさだった。底冷えする感触のままに刃が押し進み、首が断たれる。その間、血がドクドクと零れる感覚、熱を帯びた断面と冷気を纏う刃物の混同、そして脳内に溢れる生涯感じれないほどの多幸感に満たされる。その非現実的な感覚に呑み込まれたまま意識が消えた。
次に目が覚めたときには口の中のラムネは溶けきって飲み込んでいた。まだ口のラムネの甘さと首筋の刃物の冷たさが抜けきらない。高鳴る心臓は次を求めるかの如く脈打っていた。頬を朱に染めたまま残る1つに手を伸ばす。包装を破けば青色のラムネが見えた。そしてそれを噛み砕く。今度は目の前に縄で作られた絞首台があった。首元に掛かる麻縄がチリチリと擦れ、痛みを感じたのも束の間、縄が締まり首を確かに捉え、息が詰まる。酸素が足りず掠れる視野と体から切り離されたように何も感じない四肢、そしてやはり脳を劈く一生ものの快楽に揉まれ、意識が戻ると同時にラムネを飲み込んだ。さらにもう一つと思ったところで気がついた。もう無いんだ、と。
『死を思い留まらせるラムネ』本当なら死の恐怖を知ってやめることにする、そうゆうものなのだろう。でもこの快楽に気づいてしまったらもう戻れなくなってしまう。自身の胸に手を当てる。心臓は未だ冷静さを取り戻せてはいなかった。逸る心臓、快楽に溺死する脳、そして全身の昂りが人生最後のラムネに手を伸ばさせた。
自分の家から徒歩5分のところにある廃ビル、その屋上へ登る。屋上から見た夜景は人生の終わりに相応しいほどに煌めいてた。塀の外に出て見下ろす。確実に死ねる、絶対逝ける。そう思うとより一層心臓が騒めく。夜風に誘われるまま、誰もが持ってるたった一つのラムネを噛み砕いた。今度は甘ったるくない、鉄の味がした。
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