本当の愛を知るものよ!

彼方 阿久

プロローグ

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。














急な手紙と、とつぜん大学やめて、

ごめんなさい。



初めて人に手紙を出すから

どうかけば良いとか何話せば良いのか、

何もわからないんだけれど…


とりあえず、

言いたかったことだけ、書かせて。


私はあなたを見て、正直うらやましかった。

りょうしんがいなくても自由に生きて、

人をむじょうけんで愛せれる所とか。


だれよりも優しくて自分よりも

友達や知らない人をゆうせんしたり

思いやりがあるいっぱんてきな

人の心があるからこそ、

私があの時あなたに

『私なんて、生まれてこなければ良かった』

なんて軽い言葉が、ずっと引っかかっていると思う。


でもあれは、

名前も家がらもめいよとか関係なく出た

私だけの、たった1人だけの

『本当』の言葉です。

……あなたにとったら、

かなしい言葉だろうけど。

うそじゃないからね。


私はあなたたちとすごした、

あの楽しい日々を忘れません。


どうかあなたも私の事をぜったいに

忘れないで。

だれよりも私はあなたの事を

想っていました。



また、会えたらいいね


ありがとう ごめんなさい



。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。












・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・





つまらない色だった背景に淡い

桜色の花が目立ち、鮮やかになる。




緩やかに日の出が落ちていき、

今まで居なかった蝶や花を

最近見る事が多くなり

この季節は幾分と睡魔が襲ってくるものだ。



都内でもそれほど栄えていない区の住宅街。

綺麗な家が並ぶ中古ぼけた家がある。

そこは老舗の本屋で、

ごく普通の男子高校生が店番をしている。



老舗の本屋は

大正時代からありここら地域では

軽く有名な書店である。


スマートフォンが流行り出した際、

全国の老舗書店は経済危機に直面し、

店仕舞いをする書店は訳4000店舗近くあった。

中でもこの『福沢書店』も

例外では無かった。


この書店が今でも

畳まずにいられる理由が2点ある。


徒歩10分圏内に私立高校があり、

学生顧客が訪れる事が多い点。

その高校とは遠方に、様々な著名人が卒業した有名私立大学があり、

特殊な分野の本の取り寄せを頼まれる事が多いのだ。


もう一点は地元から

ご愛顧を預かっている点だ。

この書店は悪い噂も無く、

地元のバザールやフリーマーケットに

積極的に参加している事もあり自然と存在が知られていった。

老舗店なも事もあり、

常連の老人らも足を運びやすい。


閉店に対しての悩みを店主らが溢すと

皆閉店を惜しんで、

中には市役所にまで押し入った人も居り

中々それは凄かったものだ。

幼いながらも当時の記憶が薄ら残っていた。

ここの老舗書店は少しだけ珍しく

店主が力を入れて書店でも本が読める様

リーディングヌックの場所も開拓した。

諸々費用がかかり大変だったそうだが。



聞き飽きたラジオの周波を変えて

適当な番組へ変える。

今時の高校生でラジオを簡単に扱えるのはちょっとした優越感に浸れるというものだ。




読みかけであった小説に手を伸ばし、

一枚、また一枚、と物語を送っていく。




文章の世界に浸り、

顔も分からぬ人が描いた世界観に入るのは

いつまでも不思議な感覚だ。

自身が誇張された存在である事の

存在証明になっている感覚にも陥り、

没頭が出来る。



この時間が何より落ち着けて

何も考えずに過ごせ落ち着くものだ、

と店番の少年は思った。




ーーーー早歩きで来るドタドタと

煩い足音が近づいてくると

同時にそんな

空想世界から拒絶される訳だが。



「よ〜!リツキチ〜!会いにきちゃったわ〜!久しぶりぃ〜!!つってもまぁ昨日の昨日ぶり的な!!いやぁ変わらずお前暇そうだよ〜〜〜!!」


と意気揚々に声をかける元気な少年が居た。




『リツキチ』との愛称で呼ばれた

店番をしていた茶目茶髪の高校生、

福沢律吉(ふくざわ りつき)は

陽気な少年の顔を見る事をせず、

自身の頬骨近くの枝毛を節目がちで見て、

ため息混じりで適当な挨拶を交わす。



「…渋沢。……こんにちは。」

「ん!やけに萎えてね??なんでなんで??

………!ああ〜わかったわかった、

俺に会いたくって寂しんぼボーイしてたッてワケね〜ッガッハッハ!」


「………違うよ。うるさいから…

ここ店だし、お客さん今居るし……

めっちゃ迷惑なんですけど………」


福沢は本を閉じて左手で

リーディングヌックの場所を指す。


そこに1人の利用者が居た。

突然の騒音は読書の妨げになっただろう。

図書室の使い方の授業もあったりして

渋沢にも分かる筈、なのだが…。


一際大きな声で福沢に話しかけてきた少年は

渋沢(しぶさわ)という。

福沢のクラスメイトで何かある度に

大声で話しかけられたり、自分の近場で

アレやコレや話しかけてくる変な奴だ。


福澤の注意の言葉を軽く流し、

遠い所にいる顧客に

苦笑を溢しながらも渋沢は頭を下げた。

その後、顔をあげ、

律吉の顔を見るや根暗な奴だな…と

言いたげである様な目つきで福澤を見た。




渋沢はそのまま慣れ動作でスマホを取り出し、無言で弄り出す。




何かを探しているのか時々顎に手を当てたり

唸ったりしている。


足を踏み直し体制を変えたりしているが

スマホに神経を持っていかれた様に

何も喋らなくなってしまった。



福沢からしたら客として接するべきか、

クラスメイトとして対応するか分からず、

嫌味な口調で低めの声を掛け文句を溢した。


「なぁ、ひやかししてんの?」



「ウェ〜イ!そうそう〜〜w日頃根暗で

おもんねぇ奴の様子見にきてやったワケ〜!!!リツキチィ〜うぇ〜い!!w」



「………。」

「…嘘だっての。ごめんごめん言いすぎた。参考書買いにきたのー。

俺の目的はレフェレンスブーーックッ。

ねね、どこに置いてあんの?」


スマホを福沢の眼前にまで見せ、

検索履歴を示す。

その勢いに押されて一瞬だけ怯んだ。


何故に英語で話したのかは

福沢には理解が及ばないが、

顧客が参考図書が欲しいとい事は

理解が出来た。

具体的な本を紹介したかったが、

またああいうノリをまたされると面倒なので

あえて聞かず福沢は指で本棚を刺し、

誘導する。


「はぁ………俺から見て左側。

学生に向けた参考書のコーナー。

そこにあるよ」


早く行けと言わんばかりの視線を

渋沢に向ける。

渋沢はその意図を見抜いた様で「へいへい」と適当に交わし、

スマホをズボンのポケットにしまう。



そのまま歩こうとする渋沢を


「後お前、

……レ『ファ』レンスブックな。」

「!」

「イキるのはいいけど、

間違えんなよ。頭悪いの自分から晒すとか。……あはははっ。」


と一言余計な事を福沢は言い、

軽く笑いながら、

悔しそうな顔をした渋沢を見送った。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ガラガラと音を立てレジの口が開く

キャッシュレスなんてものはまだ実施していないものだから

人の手で金銭の受け取りをしなければいけないのが

少々この店番では嫌なお手伝いだ。


持っている少量の小銭を手渡しで渋沢に渡す。


「参考書たけ〜…会計あんがとーー」

「まぁ…金かかってんし。袋つけるから待ってて。」


福沢はそう言い、レジ下付近にある

ビニール袋を取り出して参考書を入れる。


ついでに一枚だけハガキサイズの広告紙を入れた。



するや否や、渋沢はぎょっとした目をしながら

はがきに描かれていた絵に反応した。


「うわッ沖田麗だッ!」


沖田麗。

渋沢からよく聞く名前だ。

名前は、聞いた事がある。



とは言うが。


嫌でも目にし、耳にし、

口にも情報が入る人物なのだ。


だの、スマホのSNSトレンド、

ラジオでもテレビの放送番組、

クラスメイトの話題や

顧客から聞く情報など。

必ず何処かでその名前か顔を認知する存在が

沖田麗という訳だ。 

あまりにも国民の皆が興味関心を示すもので

福沢は返って一層な無関心な態度を取っていた訳だが、嫌な好奇心で調べた事がある。


アパレル業界内の新星だ、

多様性ファッションデザイナーだの

人類の神に近しい人だの……

あの人が居るから人生が救われただの…

まるで神格化されまくっている存在である。


昔から才能に溢れていたという過去を持っている人と自分とじゃあ真反対の人間で

調べていく内にそのままやるせない気持ちと劣等感に苛まれそれ以来情報を

自ら情報をシャットダウンをした。


嫌でも情報に入り、

無意識な意識で自分と比較し、

酷い倦怠感に襲われるのだ。


誰からも好かれている所も

また嫌気が刺す部分だ。


「…その人、あっちの本棚にもいるよ。」

「え!!!!ガチ!?!?

うわ!!本当だ!!!!

うわーーーー!表紙にもなってんじゃんか!

すっげーーーーなんでも出来る人じゃん沖田麗ー!すげーーー!!」


渋沢はまた煩い声を出しながら

本棚に駆け寄る。


一方福沢は怪訝な顔をしながらも

僅かにファッション雑誌棚を見る。

有名雑誌の表紙に彼の笑顔が映っており、

誰も着こなせない様な華やかな衣装に身に纏われている。

目に入るだけでも胸の中心が窮屈さを叫ぶ。


「この人ーー、超凄い事したよなーー!

あれは痺れたよ〜〜

日本これでまた世界から株上がるわぁ!つか、リツキチ知ってっか?

この人のウルトラハイパー偉業!」

「心底興味がないから知らないし。なんで知る必要あんの?」

「あーーーお前ってそういうタイプだ

もんなめんどくせーーーっ。

一言多いの辞めといた方がいいぜ、リツキチ。

数少ない友達減らしたい訳?」

「はいはい。」

「あーーもうお前ってやつーーーっ、

沖田麗さん、この人、同性婚を日本で取り入れようとしてんだよ!」

「へーーーーー」


心底にどうでも良い話題で相槌を打つのにも苦労する。

そんなもの、取り入れてどうするつもりだ。



「……………ガチで興味ないじゃん。」

「興味ないし知る必要ないっつったじゃん。」

「いーーやいやいやいやいや、

大事よこれ?リツキチ!

この法律マジでガチで取り入れちゃったら

日本スッゲー事になんよ?

もうそりゃ!好きな人同士が異性関係なく結婚できんの!!文字通り!

生態系のバランスとかブッ壊れゲーになっちゃうでしょ〜!!!!」



興奮状態に陥った渋沢を睨みながら

福沢は下唇を左右に動かし、

右頬だけを一瞬上にあげた。



「ないよ。というかそれ違法になるし。

夫婦って言葉が男女に使われるから。

知らなかった?

その沖田って人さぁ、意味わかんなくね?

自分が称賛浴びたいからそういう

変な法律を申請してんじゃないの。

日本の事、ガチで知ってる人ならそんなの取り入れたら少子化問題に発展してくしより

日本は貧困になるでしょ。

自分は誰よりも知らない皆の味方だ〜とか言って偽善者振りかぶってるけどさぁ、

…俺らが知らない知識を見せたいだけだろ?

そんなよくわかんない正義論振りかぶってる人を見て、変に憧れてる人とかもいるけどさぁ……なんか、沖田麗もその人もなんも

人生楽しくなさそ。」




早口で言い終わると同時に

室内の温度が低くなった感覚がした。




ぺら。ぺら。

遠い所から紙だけが聞こえてくる。


暫しの沈黙が次第に不安感を

じわじわと感じた福沢は

会話を続けようと皮肉混じりで

前言撤回をしてみた。




「って。………そんな普通すぎる俺が言っても何も解決しないか。」



福沢は苦笑を溢しながら自虐を溢す。


渋沢は特にこれといった調子で

福沢の言葉に突っ込んだ。


「普通??俺らの高校、

偏差値高い方なのにか!?」

「頭が良くても突出した

個性がないとなれないよ」

「だーーから前にも言ってんじゃん!

スポーツやろってよーー

バスケお前にもやってほしいけどもーー

ま!世は正にパルクーッル時代だかんな〜〜そっちでも良いっちゃ良い委員会だけど」

「ええ……パルクール??

簡単に命投げ出すつもり??」

「違う違うーーー

俺らもヒーローになる時代よ♩」

「は、はぁ???」

「お……まえ…なぁ……

ほんっと…そこまで知識無いと

心配なっちまうよーーー……」


口を尖らせながらも渋沢は福沢の性格を

理解しているのだろう

あまり深くは言及せずに落ち着いた。


「俺んじやぁ…そろそろ家帰るわ!」

「はいはい。お疲れ様」

「参考書、もとい、リファレンスブックあざす!新2年生がんばろな♩ガチでさ!

年々減ってく友、

お前だけは確実永久ってな」👊

「…」

「お前本当ノリ悪ぃ〜っての。じゃあ、来週な!バイバ〜〜イ!!」


渋沢は大きく腕を振り

福沢の前から姿を消した。


苦笑いを溢しながらも

後ろ姿の渋沢を目で見送った。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






日が落ち始め、

空に水色と茜色のグラデーションかかる。



時計は見てないものの、

恐らく6時くらいなのだろう

天気予報の話がラジオから流れ、

快晴日和が続き洗濯物が乾くだそうだ。


本の貸し出しや予約表の

書類整理を最後の業務として取り掛かる。

今時それ相応の機械を買えば良いものの、

何かとケチって手動でまとめるのは、面倒だし両親には現代の物に慣れてほしいと思う。


書類の整理が終わった後は

郵便物の確認もする。


いらない雑誌や請求書在中書、

中には手書きでここの土地を売ってくれとの馬鹿げた紙も入っている。


なんてペーパーレスな事を

しているのだろうか。



真っ先にその紙だけ

ゴミ箱の中に突っ込んだ。



他にも多くの広告系の

雑誌を無心で捨てている途中、

見た事の無い求人の募集を見かけ、

手が止まる。


「………『新設 世才探偵事務所 調査員募集』って。」


探偵の、しかも新設された事務所とか。


あまりにも信用性に欠けるチラシを見て呆れ返りそのままゴミ箱へ投げ捨ててしまった。



「リツキ君〜、

もう夜だから、店番お母さん変わるね〜」


2階から降りてきた母が声をかけてきた。

昔から自分の事を君づけで呼ぶのは

恥ずかしいので辞めてほしい。


「君呼びやだっていつも言ってる」

「ええ、…可愛いのになぁ」

「可愛いって思うのは母さんだけでしょ。やだからやめて。

もう風呂入って寝る。お休み」


ぶっきらぼうに言い放ち、

母の顔を見ずに隣を素通りし、

2階に通じる扉を開けて階段を上がる。

そのまま父の部屋、母の部屋を抜かし

2階の端にある

自分の部屋の扉を開け、入り、扉を閉める。



ため息を大きく吐きそのまま

ベッドにダイブした。



今日は面倒な相手の対応をしたものでとても

気を休めない接客になった。


後少しで春休みが終わるというのに、

暇さえあれば足を運ぶ

同級生の対応は気を使うのと、

自分が好きじゃない話題に無限と付き合わされるのはペースが乱れる為に心労が大きい。


そのまま何度か大きく深呼吸をしていると

瞼が徐々に落ちていく。



明後日からまた新しい生活になり

不安と僅かな楽しみの気持ちのまま

意識を落とした。


















・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







『福沢書店の営業時間は20時まで。』





よく手にする

本の栞に書店のルールが書いている。

この注意書きを見るのも早20年は経つだろう。


1人用ソファの

座り心地はいつも安定感があって

いつの間にか長居をしてしまう。


ここは誰にも邪魔をされる事なく

好き空間だと感じる。



時刻は20手前となってしまい、

また長く居座ってしまった。

ソファから立ち上がり、

手提げの紙袋を持つ。


玄関前に行くついでに本の整理をしている最中の店主に挨拶を交わした。

店主は私の顔を見るや笑顔で仕事を辞め会話に応じてくれた。



「まぁこんばんは!いつもありがとうございますお客さん!」


「今晩は。こちらこそですよ。今日もありがとうございました。

後これ、つまらない物ですが、

よろしければご家族でお召し上がって下さい。」

「まぁ…!いいの??こんな美味しそうな物!」


「いつものお礼です。

是非ご家族で召し上がって下さい。」


深々とお辞儀をする店主に

私もおうむ返しの様に頭を下げ、笑顔で答えた。


「それでは、さようなら。」



それだけ、《最後の》挨拶を

告げこの書店を後にした。


もう私にはこの場所は必要がないと

判断したからだ。


今まで見ず知らずの私に

優しくしてくれた店主には

酷な事をしてしまうだろうが、

20年分のお礼は行動で示した筈だ。




電柱が無い夜道を独りで帰る。


なんて平穏で幸せな、


つまらない人生なのだろう。




私は続けて、独白を溢す




君はこれから『本当の愛』を

知らなきゃいけない。



様々な人と出会い、

中には思わぬ別れを経験し

憎しみも虚実めいた事に直面し、

自我を見失う事だってあるはずだろう。



それも、生きていく上で必要だ。



避けて通るもんなら

君はいつまでも何も持てないまま、

生涯を過ごす事になる。

それではダメだ。

そんな人生では死んでるのと同じだよ。


どうか、そうはならないで欲しい。




口の中に、

仄かに残るベルガモッドの柑橘系が甘い。





今後君が、《君達》が。



自分を知り、愛を知り、

真実を知っていく、そのザマを




私は酷く楽しみで仕方がないのだ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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