第3話
数日後。高校ではすでに通常授業が始まり、透夜も高校生としての自覚を持ち始めた頃。
何の変哲もない一日が終わり、眠りの時間になったが、透夜はなかなか寝付けずにいた。
昔から時折こういう夜があった。一カ月に一度くらいか、何故か得体の知れない高揚感が生まれ、体が熱くなる。そんな時は無理矢理寝ようとせず、深夜のランニングに出かけていた。体を動かせば疼きは引いたし、体力を消耗することで睡眠を取りやすくなった。
透夜は夜の路地を駆け抜ける。昔から鍛え続けているおかげが、速いペースで長距離を駆け抜けていく。中学時代では、スプリント、マラソン問わず陸上競技で透夜についてこれる同級生はほぼいなかった。
彼は生まれ持った卓越した運動神経で、体育の授業を席巻していたと言っていい。
それを誇らしげに振る舞うのは、いつも透夜本人ではなく、シノであった。彼女は透夜の活躍をまるで自分のことのように喜び、誇っていた。
それが当夜にとっては嬉しくもあり、むず痒くもあった。
夜のランニングを数年間も続けていると、透夜は妙な法則性に気付く。それは、透夜が走る夜には、必ずと言っていいほどコウとシノの二人が、あるいはどちらか一人が外出していることだった。
これまで何度も、彼らが家から出ていく瞬間を目にした。いつも彼らは慌てるように、緊張感を帯びて夜の闇に消える。
しかし透夜は、黒天寺親子の不審な夜の外出に一切言及しなかった。彼自身他人と突っ込んだ関係を築く気質ではなかったし、自分に教えない以上知られたくないことだと思っていたからだ。
彼らは家族だ。けれど血が繋がっているわけじゃない。その事実が、透夜に一線を引かせていた。自分は本当の家族にはなれないのだと、そう思っていた。
コウとシノは今夜も家にいない。
それが当たり前のことであり、透夜の中ではすでに馴化していた。
それが、日常だった。
翌日、案の定シノは疲労の溜まった様子だった。
深夜にいなくなった次の日は、決まってこうだ。目の下に隈を作り、眠たげな瞳をこすっている。大きなあくびも、今朝で何度目だろうか。だが、透夜は何も言わない。何も変わったことは無い。何もかもいつも通りであり、ごくごく普通の朝だ。
「眠たそうだな」
「まぁねー」
「無理するなよ」
「ありがと」
このやり取りも慣れたものだ。
しかし、だからといってシノが深夜何をしに外出しているのか知りたくないわけではない。僅かではあるが、その事実に対し興味はある。
好奇心は猫を殺すともいうが。
その僅かな好奇心が、自分まで殺すとは思わなかった。
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