第1章:入社式、それはカオスの始まり。

第1話 | それぞれの、はじまり

宇宙の運命を握る企業〈STELAXYS〉本社。

空間を歪めるような巨大なタワーの最上階で、

一つのスピーカーから機械音がこだました。

「本日より“風の時代”に移行いたします。皆様、配置調整にご注意ください」

その一言が、惑星レベルの混乱を巻き起こすとは、誰もまだ知らない。


「うわ〜マジでここで合ってる? てかエントランス広すぎじゃない?」

メルシオ=スウィフト。

銀髪のショートにホログラム仕様のパーカー、首にぶら下げた大型ヘッドホン。

まるで新しい遊び場を見つけた子どものように、瞳をきらきらと輝かせながらあたりを見回す。

「お、おはようございます……! あの、わたし――あってますかね?」

ノイラ=セリス。

淡いグレーのロングヘアを三つ編みにし、真っ白なシャツにベージュのカーディガン。

胸元でトートバッグをぎゅっと抱きしめるその姿は、どこか儚い印象だった。

「おー、たぶんここで合ってるよ?『新卒入社式:第137会議室』って書いてあったし」

メルシオがスマートパッドをちらつかせながら、ソファの上にあぐらをかいた。

「おい、もう始まってるのか?」

カイエル=レッジ。

鮮やかな赤のスーツを身にまとい、短く刈った髪はツンツンとはねている。

ズカズカと会議室に入り込む。鋭い眼光が“戦闘態勢”を物語っていた。

「わっ、顔怖っ。ってか赤すぎてびびるんだけど……」

「は? 赤が一番目立つんだろうが。俺が主役で何が悪い」

「はいはい、はいはい。そーゆーのもうちょい後でやろうな?」

メルシオとカイエルが早くも火花を散らし、ノイラはただただ縮こまる。

そこへ、扉が静かに開く音がした。

「……やれやれ。やかましい連中が先に来ているとは」

ソレイン=ルミス。

細身のスーツに真っ白いシャツ。鮮やかなオレンジのネクタイには、金色にきらめくネクタイピン。

柔らかな金髪と整った微笑みが、まるで太陽のような存在感を放っていた。

その場の空気がすっと変わる。

「自己紹介はまだのようだね。じゃあ僕から始めようか」

彼が一歩前に出て、手を差し出す。

「本日より入社した、ソレイン=ルミス。みんな、よろしく」

一瞬の静寂の後、カイエルとメルシオが同時に噴き出す。

「リーダー気取りかよ!」

「ってかなに勝手に自己紹介始めてるの?」

「……ふふ。あの、お久しぶりですね、ソレインさん」

ノイラがぺこりと頭を下げると、ソレインは穏やかに頷いた。

続いて現れたのは、ヴィエナ=アスタ。

揺れるプラチナブロンドに、パールピンクのスーツ。

香水の甘い香りを振り撒きながら着席する。

「うふふ、お部屋が華やかになった気がするわ。私が来たからね」

次に、資料バインダーを片手に抱えた男が入室する。

「やあ、失礼。入社式はまだ始まってないよね?」

ジョヴィス=ファレン。

しっかりした体格。無造作に結んだ栗色の髪が揺れる。

眼鏡を中指で軽く押し上げ、ロングコートの裾をはためかせて着席する。

「なんか初対面でも安心感すご……」

「兄貴って呼んでいいですか……」

メルシオとカイエルが妙に納得した顔になる。

次に来たのは、セレン=ガルダ。

モノトーンのハイネックに黒縁の眼鏡。沈黙とともに現れ、誰とも目を合わせず席へ。

その場の空気が一瞬だけ“重く”なったように感じられた。

「……え、なんか……この人だけ、時の流れが違う」

と、ノイラが小声でつぶやく。

その直後、ふわりと霧が漂うようにして現れたのは、ネフ=リルナ。

淡い水色の長髪、透けるようなコート、どこか夢から抜け出てきたような中性的な雰囲気。

「おはようございます……たぶん……ここでいいのかな……?」

声すら水に溶けるように淡く、誰も彼の足音を聞いた記憶がなかった。

「わあ……なんか……詩になりそう……」とメルシオがつぶやく。

次に姿を現したのは、ユリクス=ゼン。

無音で滑り込むように現れた彼は、灰銀の髪をラフに束ね、光沢のあるコートを羽織っていた。

その瞳はどこか、“ここ”ではない場所を見ているような気がした。

「……ユリクス=ゼン。よろしく」

名乗りも手短。まるで、未来の予定に遅れたことを気にしているかのようなそぶりで席についた。

「え、あの人……時空ゆがめて移動してきた?」

「なんか“次世代”って感じの雰囲気……」

メルシオとソレインが小声でささやく。


そして最後に、静かに立っていたのはプルヴィエン=クロウル。

誰も彼が入ってきた瞬間を“見ていなかった”のに、そこにいた。

黒に近い群青のコート、鋭い目元に無表情な顔。

手には一枚のカード型端末を持ち、視線は誰にも向けられていない。

「……データ確認完了。異常なし」

それだけ呟いて、端末をしまう。

「……あの人、存在そのものがバグみたい……」

ソレインがぽつりと漏らした。


「――これで、全員揃ったかな?」

声がして、部屋の扉が開いた。

現れたのは、双子のリクト=ジェメルとリオ=ジェメル。

「それじゃ〜、みんなの“運命適性”診断、はじめちゃおっか☆」

「さあ、ようこそ。ステラクシスへ」


*To be continued*

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