第19話 通じるもの
ときはさかのぼって、シロハがゆかりを抱えて塔に向かったころ。
「……よし、私らも動き始めるぞ」
アカネはちょこちょこと、クロカのとなりに立つ。
「まぁ、行動は早いにこしたことはありませんわね。ハイラもついてきなさい」
木の上で戦況をみはっていたハイラがフワフワと下におりてきた。
「うぅ…これ以上働いたら死んじゃうよ~」
「死ぬとしても二回目でしょう。問題ないですわ」
アカネはすずしい顔でハイラを言葉でさす。
「……おーい、雑談してる暇ないっぽいけど」
しばらく動きがないと思われた戦況は、がしゃどくろがゆっくりと歩き出したことで一変した。
「えぇ!?ウソ、ウソ、ウソ!どうしよう!?思ったよりも早いよ!?」
ハイラは大慌てでチョロチョロとあたりを回る。
「うるさいですわね。まぁ、予想外ではありますが。予定通り動けば―――」
アカネはクロカのほうをふりかえったが……
そこにクロカはいなかった。
「なっ!?クロカはどこに行ったんですの!?」
ハイラがあわてて前を指さす。
「あいつ!!もう走って行っちゃったみたいだけど!?」
アカネは困ったようにほほえむ。
「あらら…じゃあ、私たちも始めましょう。ウフフ」
アカネはニヤニヤと笑いながら、コウモリたちを呼んでいる。
「……お嬢様はなぁんでずっとニヤニヤしてるのさ。あの無鉄砲カラスのどこがいいってワケ?」
ハイラは文句をつぶやきながら準備をしていた。
「ウフフ。あんなにおもしろい子、めったに見ないんですもの。あなたもそこを気に入ってここに来ているんじゃなくって?」
「アタシははたらかされてるの!!」
ハイラは頬をふくらませて、真っ白な肌を怒りで赤くした。
「ウフフ。あなたもおもしろいわね。ツンデレってやつかしら?」
「そんなんじゃないもん!!」
アカネとハイラはクロカの後を追うようにふわりと浮いた。
* * *
いち早く走っていったクロカは、恐れる様子もなくがしゃどくろの目の前に立つ。
「よぉ!一日ぶり!」
クロカはがしゃどくろの視界に入るようにピョンピョンとその場でジャンプする。
「……」
がしゃどくろはクロカに気づいたようだが、おそう様子はなく、なぜか一歩下がった。
「……やっぱりな。お前、話通じないだけで意思はあるんだろ?」
がしゃどくろは周囲に用心しながら、クロカをにらむ。
「私が超弱いことを知ってるくせに、今おそってこないのも、私をおそったときにシロハに痛い目にあわされたから」
クロカはスキをさらしながら、がしゃどくろに近づく。
「見た感じ脳みそはなさそうだけど……まぁ妖怪なんてそんなもんだよな!」
クロカはカカッとほがらかに笑った。
「……グガ?」
戦場に似合わないクロカの態度に、がしゃどくろは首をかしげる。
「私さ、絵を描くんだよ。絵って知ってる?絵ってのは……うーん、思ったより説明が難しいな」
クロカはあごに手を当てて、考えこむ。
「まぁ、いろいろあるけどさ。あえて言うなら―――」
クロカはニコッと笑いかけて、両手とつばさを広げる。
「この戦争を止めるもの!」
クロカのうしろからバサリ、とたくさんのつばさが飛び立つ音が聞こえた。
アカネのコウモリたちが大きな絵を持って、がしゃどくろの目の前に飛ぶ。
がしゃどくろの目の前にあらわれたのは大きな絵巻。
大きながしゃどくろが、畑で子ぎつねたちの相手をしている。
烏天狗たちは空を自由に飛び、幽霊と妖狐がたき火をかこんで、吸血鬼も笑っている。
色も表情からも感じとれる、とてもやさしい絵だった。
「どう?まじで大変だったんだから。こんなでっかい絵を描くなんてはじめてでね」
がしゃどくろは絵巻をじっと見つめて、動かない。
クロカはその様子を見守っていたが、がしゃどくろは急にうでを動かしクロカを手でつつむ。
「クロカ!?」
木陰に隠れていたアカネがキケンを察知して飛び出してきた。
「……おぉ!!」
クロカはがしゃどくろの肩の上にちょこんと乗せられた。
「だ、大丈夫なんですの!?」
アカネは羽を広げてクロカに近づく。
「あぁ、気に入ってくれたみたいだな。作戦成功!!」
「ぶい!」と言ってクロカはピースサインしてみせた。
「まったく、まだ終わってないですわよ?」
コウモリたちはもっている絵をまいて、がしゃどくろにわたす。
「グギャグギャ」
がしゃどくろは骨をガチガチとならすだけだが、心なしか嬉しそうだ。
「よぉし、見えないけどいるだろ!!ハイラー!!はたらいてー!!」
クロカは大声をあげる。
「うぅ、今やるわ…っよ!!!」
ハイラは力をためて、両手をあげる。
たましいの形をした妖力のかたまりがハイラのまわりをおおう。
「新聞配りの最強妖術!!とくとごらんあれ!」
妖力のかたまりたちは、クロカの何百枚にもなる絵をもって、戦場をかけめぐる。
「おぉ!私の絵がめちゃくちゃ浮いてる!」
クロカは目を輝かせた。
「流石ですわね。何百枚の紙を山中に配るのなんて、ここの新聞記者にとっては朝飯前だったかしら」
アカネはハイラのほうへ向かうために地上におりる。
「めったに使わないけどね、めっちゃ疲れるんだか…ら……」
ハイラはフラッとその場にたおれてしまった。
「あらあら」
アカネは手をたたいてコウモリたちを招集する。
「ワタクシたちもお手伝いますか」
のこっていた絵をコウモリたちがもって飛んでいった。
「本当に、おもしろくて、あきないですわね」
アカネはがしゃどくろと肩の上にのったクロカを見あげた。
* * *
「なぁなぁなぁ。絵どうだった?よかった?たのしかった?うれしかった?」
クロカはがしゃどくろのとなりで、しつこく絵の感想を聞いていた。
「グググ……」
がしゃどくろは困ったようにドシン、ドシンと大きな振動を立てて歩きつづける。
「……何言ってるかわからん!!」
クロカは楽しそうに、ニマニマと笑う。
「おい!キサマ!烏天狗軍のひとりか?」
地面からあらげた声が聞こえる。
妖狐の男性が、がしゃどくろの動きを怪しんで近くに来ていたようだ。
「あ!妖狐か。これ見てよー!イイ感じでしょ」
クロカはヒョイッと絵をなげる。
「な、なんなんだよ」
妖狐はうたがいの目を向けながら、絵を手に取る。
「絵?モノ好きもいたもんだな……」
妖狐は絵をじーっと見つめる。
「どうどう?上手でしょ?」
クロカは満面の笑みで、横にふらふらとゆれる。
「……ハハッ、なんか、まぬけだなぁ。……でも、こんな日常を守りたかったのかも」
妖狐は絵を持って道を戻っていく。
「よかったよ。戦争なんかよりもこっちのほうがずっと」
クロカはボーっと、その背を見つめる。
「絵の言葉、通じたよ……いろね」
「グギャ?」
がしゃどくろとは、あいかわらず話は通じないけれど。
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