第3回 未来からの手紙

都市伝説レポート 第3回


「未来からの手紙」


取材・文: 野々宮圭介



私が初めてこの噂を耳にしたのは、東北地方への取材旅行の帰りの列車の中だった。隣席の年配の女性が、友人との電話で「あの手紙のおかげで助かった」と話していたのだ。普段なら聞き流していただろうが、「未来からの手紙」という言葉に引っかかりを覚えた。


怪異現象の取材を10年続けていると、同じような話は何度も耳にする。しかし今回は違った。単なる都市伝説として片付けるには、あまりにも情報が具体的で、証言者の数も多かったのだ。



「最初は冗談かと思いましたよ。誰かのいたずらだろうって」


宮城県石巻市に住む佐藤正人さん(仮名・46歳)は、私のレコーダーに向かって静かに語り始めた。彼が「未来からの手紙」を受け取ったのは、震災から4年が経過した2015年の春のことだという。


「古びた封筒に入っていて、差出人欄には『未来の自分』って書かれてたんです。冗談にしては出来が良すぎる。だって、筆跡が完全に自分のものでしたから」


封筒の中には一枚の便箋が入っていた。そこには、ある特定の日時に特定の場所に行かないようにという警告が書かれていたという。


「行くつもりだった釣り場で、その日に土砂崩れがあったんです。もし手紙の警告を無視していたら...」


佐藤さんは言葉を詰まらせた。



この「未来からの手紙」現象は、東日本大震災以降、主に被災地域で報告されるようになった。私が取材を進めるうちに、共通するパターンが見えてきた。


1. 受取人は必ず実在する人物で、住所も正確

2. 差出人は例外なく「未来の自分」となっている

3. 内容は具体的な災害や事故の警告

4. 筆跡が本人のものと酷似している

5. 受取人は過去に命の危険を感じるような強い体験をしている


最後の点が特に興味深い。手紙を受け取った人々に共通するのは、過去に大きな災害や事故に遭遇し、九死に一生を得た経験を持つことだ。佐藤さんの場合は震災の津波から間一髪で逃れている。


「正直、あの日以来、罪悪感を抱えて生きてきました。なぜ自分だけが...という」



福島県の郡山市で古書店を営む村上千恵さん(仮名・55歳)も、同様の手紙を受け取った一人だ。彼女は震災当時、東京の出版社に勤めていた。


「2019年の夏に届いた手紙には、『8月15日午後3時、〇〇商店街の古い看板が落下する。必ず迂回路を使うこと』と書かれていました」


実際に指定された日時、商店街の老朽化した大型看板が突然落下する事故が発生。村上さんは手紙の警告通りに別ルートを選んでいたため、難を逃れたという。


「あの日以来、『未来の私』からの警告だと確信しています。筆跡鑑定もしてもらいましたが、間違いなく私のものでした」



こうした証言は単なる偶然なのだろうか。それとも何か超常現象なのか。専門家の意見も分かれる。


筑紫大学心理学部の佐々木教授は次のように分析する。


「極限状態を経験した人の脳は、未知の危険を察知する能力が鋭敏になる可能性があります。いわゆる『第六感』が研ぎ澄まされ、それを手紙という形で自己暗示している可能性も」


一方、複数の筆跡専門家による分析では、これらの手紙の筆跡は確かに本人のものに酷似していると結論づけられているケースが多い。しかし、高度な偽造の可能性も否定できないという。



私は取材の過程で、ある興味深い事実に気づいた。手紙を受け取った人々は皆、「未来の自分」からの警告を真剣に受け止めている。そして、その警告通りに行動した結果、実際に危険を回避できたというのだ。


仙台市の消防署に勤める鈴木隊員(仮名・38歳)は、「出動した火事現場の倒壊を予言する手紙」を受け取り、同僚に警告したことで、部隊全員の命が救われたという。


「あの日以来、時々不思議に思うんです。もし『未来の自分』が本当に存在するなら、なぜ震災そのものを防ごうとしなかったのか」


この問いには、誰も答えられない。



「未来からの手紙」現象は、我々の常識を覆す不思議な出来事だ。しかし、私はジャーナリストとして、単なる都市伝説として片付けることはできない。あまりにも多くの証言者が存在し、その内容があまりにも具体的だからだ。


時間とは何か。未来は既に決まっているのか。それとも変えられるものなのか。


私たちは自分自身の未来と対話することができるのだろうか。


答えを知るのは、おそらく読者のあなただ。


あなたの家に古びた封筒が届いたとき、開封するだろうか。それとも、未来を知ることを恐れ、破り捨てるだろうか。


真実は、時の彼方にある。


(了)



*本誌では読者の皆様からの都市伝説情報を募集しています。身近な不思議体験がありましたら、編集部までお寄せください。

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