第24話 水色の現金皿
車で遠出した朝、道の途中にあったコンビニで飲み物などを買った時のことだ。
「現金でよろしいでしょうか?」
「はい。現金で」
店員は、水色の現金皿をレジの台にそっと置いた。ちなみにこの現金皿はカルトンと呼ばれているらしいが、ここでは現金皿で通すことにする。
その皿のフチには、呪われそうな汚い字で
『お札をなめないでください』
と直マジックの走り書きがあった。
店員の顔をもう一度見た。店員は大真面目な顔で私が現金を出すのを待っている。
店員さん、ちょっと待って!!
それ、私への無言メッセージですか?
彼にとってはもうこの皿の文字は風景なんだろうけど、私は初見でかなり衝撃を食らった。
まず、お札をなめる客なんて滅多にないレア客だよね。なのに、わざわざここに書いて、現金払いの人全員にそっと無言のメッセージを送る必要はあるのか?
それにこの文章、意味は通じるけどなんか変だ。だって、お札を数える時、お札を直接なめるのではなく、なめて濡らした指で数えるってことだよね。まぁ、受け取る側としてはお客のつばがべったり付いたお札を受け取ることには変わりなく気持ち悪いんだろうけど。
ここのお店にはそういう常連客がいて、ここの店員さんは余程嫌な思いをしたのだろうか。それともこの地域にそういう人が多いのだろうか(それはないか…)。
現金で支払う一瞬のタイミングで色んな考えが頭の中を駆け巡ると同時に、インパクトある汚い字の走り書きと大真面目な店員の態度がミスマッチで可笑しくて笑ってしまいそうだった。
そう言えば、ある高齢の方でお札を数えるときにおもむろに指をなめてから、数える人がいた。確かにそのお札を手で受け取るのは嫌だった。気持ち分かるよ店員さん。電子マネーを推進したくなる気持ちも分かるよ。
「お兄さん、これ…(何なんですか?)」
私はその『お札をなめないでください』と汚い字で走り書きされたお皿に現金を置いて、その文字を指差しながら思わず言ってしまった。
「すいません、僕じゃないっス」
店員は苦笑いした。
あなたが書いたかどうかを聞きたかったわけでもなかったんだけど。
朝っぱらから面白かった出来事でした。
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