第4話 ニジマス釣り
数年前のことです。友人親子と小学生だった息子と娘を連れて、ニジマス釣りに行きました。
自分で釣った魚を目の前で捌いてもらい、備え付けのかまどで焼いて食べることができるというものでした。
友人と行ったので、私が子ども二人の釣りの面倒を見ないといけない。しかし、私も不慣れなので、内心は釣れた後どうしよう!!という感じでした。
さっそく、専用の練り物のようなエサを釣り針につけて息子から始めます。
針を投げ入れると、すぐに水面に浮かんだウキが反応し、釣り竿を握る手元に引っ張られる感覚があったようで、息子は釣り竿を引き上げました。
わわわ…これ、どーするんだ??
とりあえず、私がやるしかない!!
とにかく、魚をバケツに移さねば!!!
「わぁーすごい!! やったぁ!」
息子は無邪気に喜んでいますが、こっちは必死です。魚は右に左にピチピチと大暴れして、つかもうとするとヌルっと滑りまくる。そんな中、一応記念写真ぐらいは…と無理矢理撮影しました。息子は魚と一緒に満面の笑みを浮かべていました。その後、釣り針を外してなんとかバケツに移し入れました。
これまで経験したことのある釣り堀体験では、池の水を貯めたバケツの中に釣った魚を入れるスタイルだったのですが、今回は違いました。
今回は、水が貯められないようにバケツの底に穴が開けてあったんです。あとで魚を捌くときに、その方が都合が良かったのでしょう。
水のないバケツの中で急速に弱っていく魚の様子を見つめる息子。だんだんと元気がなくなり表情を曇らせていきました。
「………」
息子は、弱っていく魚の口の中に、手元にあった餌を入れてました。
「…もう釣りたくない」
息子は、ポツリとそういって竿を置きました。
「ママー、釣れた!!」
息子に寄り添ってあげたい気持ちも山々でしたが、娘の魚が釣れたのでそれどころではない。さっきと同じ一連の動作で釣った魚をバケツに移しました。
その後友達と合流して、魚を捌いてもらうための列に並びました。
列に並んでいる間、息子は動きが弱くなりつつある魚を撫で触りながら、
「もう二度と魚釣りなんてしない」
と言いボロボロ泣きました。
窓口でバケツに入った魚を係の女性に渡しました。その若い女性は次々と流れ作業のごとく生きたままの魚を捌いていきます。包丁で切り込みを入れ、内臓を取り除き、串打ちして、塩をザバっとかける、そんな一連の様子を感心し通しで見守りました。
息子は捌くところを見たくなかったのか、トイレに行ってくると言ってその場を去りました。
最後まで見届けてほしいと思う気持ちもありましたが、無理強いするのも良くないでしょう。私も複雑な気持ちで胸がギュッと痛くなりました。
「Aくん(息子)、いつも魚とかお肉とか食べてるよね。私たちは生きている命をいただいて、命を繋いでる。だから「いただきます」「ごちそうさま」って感謝を込めて残さず食べること」
「魚さんは全部食べてあげることで、Aくんの一部になって生きていくから。ちゃんと食べようね」
どういう言葉かけをするのが正解なのか正直わかりませんでしたが、私はあの日、そんな話をしました。
目の前で消えていく命のこと。それをいただくということ。私自身も普段はほとんど意識することのない、命の連鎖について考えさせられました。
息子は自分のニジマスを受け取り、かまどで焼きに行きました。そのニジマスは串がさされて、塩にまみれていて、もう食べてもいい食材の体をなしていました。
息子は「骨まで食べるね」と言い、完食しました。
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