第6話 琵琶は苦念で鳴りかねる
二人が町に着くころ、陽は傾いて辺り一面を茜色に染めていた。
烏は鳴き、ゆっくりと夜を呼ぶ。
【ようこそ!来て見ていい町、
夕子はそう書かれた看板を
入ってすぐ、井戸端会議をしていた数名が二人のことを睨みつけると足早に去って行ってしまった。
それ以外にもあちこちから監視するような視線が注がれる。
「……あんまり歓迎されていないみたいだね」
「辻斬りが出ているのだ、仕方あるまい」
どうしようかと立ち尽くしている所へ、少し離れたところから女性の大きな声が聞こえてきた。
「おーい!そこのお二人さん!その子を止めておくれ!」
夕子が何事かと振り向くと小さな男の子がこちらへ向かって走って来ていた。
その後ろには男の子を追うふくよかな女性の姿が。
「任せてください!」
そういうと夕子は両手を広げて捕獲の態勢を取る。
すると何かを察したやまもとは彼女の背後へと回る。
「邪魔するなー!」
男の子は勢いよく夕子へと突っ込む。
準備万端構えていた彼女は難なく確保……出来ずに吹っ飛ばされる。
「きゃっ!!」
どさりと倒れ込む夕子。
男の子は止まらず走り続ける。
しかし――
「元気があってよろしい」
後ろで待ち構えていたやまもとに首根っこを掴まれ確保される。
彼は夕子が吹っ飛ばされるのを予期していたようだ。
「放してよ!おっちゃん!」
そう言ってジタバタと暴れるが逃れられない。
「ナイスやまもと!」
夕子は服に着いた土を払い落しながらやまもとの方へと向かう。
それと同時に母親らしき人物も息を荒げながらやって来た。
「ありがとうお二人さん。うちのバカ息子が迷惑かけたね」
「いえいえ!礼には及びませんよ」
夕子は胸を張って答える。
「捕まえたのは私だがな」
男の子をぶらぶらと揺らしながらやまもとは付け加えた。
その手元には
「放せよ!父ちゃんの
それを聞いた夕子は母親に尋ねる。
「仇と言うのは?」
すると母親の顔に影が差す。
その手は強く握りしめられていた。
「少し前にね、主人が辻斬りにやられたんだよ」
「……すみません」
「ううん、いいんだよ。止めたのにふらふらと外をほっつき歩くような馬鹿な主人だ、恰好の獲物だったろうよ」
しばしの沈黙が訪れる。
するとどこかから夕飯の匂いが風に乗って来て男の子の腹を鳴らす。
「……母ちゃん腹減った」
先ほどまでの勢いはどこへやら、すっかりとおとなしくなっていた。
母親の顔に笑みが戻る。
「お二人さん、今夜はうちに泊まっていくかい?お礼も兼ねてさ」
「いやいや、宿を探すのでお気持ちだけで大丈夫ですよ」
夕子がそう言うと母親は町を見回す。
「今はどこの宿も閉めちまってるよ。こんな状況だからねぇ」
周りを見れば宿どころかどこの店も暖簾を下ろしていた
「え!?……それじゃあお言葉に甘えさせていただきます」
「よーし決まりだ!早く帰って支度をしないと。……自己紹介がまだだったね。あたしはヨネ、そこのがきんちょが平吉」
自己紹介をしつつヨネはやまもとの手から平吉をひったくっていた。
「私は夕子、そこのおじさんがやまもと。よろしくお願いします。」
自己紹介もほどほどに四人は家へと向かう。
◇
――琵琶が鳴る鳴る
夕子とやまもとはヨネの家で晩御飯を食べた後、平吉とひと騒ぎしてから眠りについていた……
……のだが。
腹に重みを感じたやまもとは目を覚ます。
見ればそこには怯えた顔の平吉が乗っていた。
「やまもと大変だ!夕子が!」
それを聞いてやまもとは一気に立ち上がる。
その勢いで転げ落ちた平吉に詰め寄った。
「お嬢に何があった」
「外に出て行っちゃった!」
耳を澄ませば琵琶の音が妖しく響いていた。
嫌なものを感じたやまもとは枕元に置いてあった刀を腰に下げ家を出た。
そこで見た光景に眉をひそめる。
「これは……」
何人かの住人が町の外へ向かってふらふらと歩いていた。
腕はだらりとぶら下がり、ただ虚空を見つめて歩き続ける。
まるで琵琶に誘われるように。
平吉は息を飲んでいた。
「夕子と同じだ。それに、あの時の父ちゃんみたいだ……」
「……何だと?」
「父ちゃんが辻斬りにやられた日も、こんな感じにふらふら町の外に行ったんだよ!早くみんなを助けないと!」
そう言って平吉は外へ向かって走り出す。
が、やまもとはその首根っこを掴み制止する。
「やる気があるのは結構だが……やる気だけではどうにもならん」
「放せよ!みんなを見捨てろって言うのかよ!」
じたばたと暴れる平吉を手に、すこし思案する。
そしてひょいっと平吉を地に下ろして言い放つ。
「家へ帰って寝ていなさい」
「……何するつもり?」
やまもとはカタカタとひとりでに震える刀に手を添える。
「――辻斬り退治だ」
その口には笑みが浮かんでいた。
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