倭国篇二十七『武田物外』
坊主はそれをひらりと
「ぐぬぬ……な、何?!!」
近藤は鉢を弾こうと木刀を押し引きするがビクともしない。勝負に負けた事はあるが、力で負けた事の無い近藤の力を持ってしてもだ。
そのまま
坊主は木刀を手前に引き、一気に押し出した。
近藤はその勢いで後方に吹き飛ばされた。
近藤は上体を起こし、
「いやぁ、参った!ワシの完敗です!ガッハッハッ!和尚、名前を伺っても宜しいかな?」
「構わぬ、ワシは
ザワザワ……
門下生のひとりがその名を知っていた。
「た、武田物外!
「まぁ、そんな事もあったな。とにかくうどんを……」
門下生達は急いでうどんを用意した。
「ほぅ!これは美味そうだ。この格好では食いづらい、脱がせて貰うぞ」
「な、何と!そのカラダは……?!!」
ここ一番……道場に皆の叫びが響き渡り、建屋が
その頃、新撰組
クソゥ……
どうすっかな、俺様は何もねぇ。しかも決戦まで五日しか無い。
「どうした総司?ブツブツ独り言か」
「おお、
山南は呆れを通り越し、惨めにさえ思った。
「あのな、可哀想だからハッキリ言ってやる。そう云うのは必殺技じゃ無い。それと、後五日では無い。蒸気機関車で
「ななな、何だとぉ!!蒸気機関車!!俺様初めて乗るぜ!!楽しみぃぃい!!」
「イヤそっち?」(必殺技はどうした……?)
そんな二人の元に、道場の門下生が知らせを持って来た。
「山南副長!沖田組長!大変です、近藤局長がやられました!!」
「は?んな訳ねぇだろ。あー!近藤さんの
流石の山南も総司に同意してクスクスと笑った。しかし……
「悪戯では無い!何を笑ってるんですか?本当です!!今直ぐ道場へ来て下さい!!」
門下生を先頭に二人は道場へと急いだ。
道中、詳しく聞いた話では真剣勝負では無く試合だと云う事で安堵はしたが、あの近藤勇が負けるなど現場に着くまで半信半疑だった。
「近藤さん!!」
総司は道場の扉を勢いよく開け飛び込んだ。
そして、いの一番目に飛び込んで来たのは道場に
で、デケェ……!!こりゃ近藤さんが一本取られたのも分からなくはねぇ。
「おー!待っていたぞ二人共!」
坊主の影からひよっこりと顔を覗かせた近藤勇は小さく見えた。何やら、坊主と向き合い何かを食べている様子だ。
「クッ!近藤さん負けたんでしょ?何をヘラヘラしてんすか?悔しくねぇんすか!!」
いくらなんでもお人好し過ぎるだろ!負けた相手と向かい合って飯とは……
「
「
物外は、山南の問い掛けに振り向きもせず返事をした。
「オイ坊さん!スカしてんじゃねぇぞ!!俺様と勝負しろ!!」
「……」ずるずる
こ、この野郎!完全無視でうどん?蕎麦?食っていやがる……
「無視してんじゃねぇクソ坊主!!後ろからド頭ぶっ叩くぞこの野郎が!!」
「……」ずるずる
や、野郎ぉぉお!!ぶちんっ
あったま来た!!そんなに強ぇなら避けてみやがれ!!
「オラァァァ!!!!」
「総司!馬鹿!やめ……ろ」
坊さんは、俺様の背後からの攻撃を
な!どういうつもりだ?こんな木刀じゃ歯が立たねぇってか!?
ところが……物外は、頭から巨体までガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「えっ?!!」
ヤベェ!やり過ぎたか?!いや、違う!ありゃ、作りもんのカラダ?!!
崩れ落ちたカラダから、雲のようにホコリが舞い上がった。そのカラダの一部なのであろう……歯が四尺(120cm)はあろう背の高い
「グホォ!!!!」
沖田は
「【
沖田を吹き飛ばしたのは、勿論物外その人。足を開き、上体を沈め、
「な、何と!!これが武田物外の真の姿なか!!」
山南が驚くのは無理も無い。巨漢の姿は作り物、中身はお下げ髪の少女だったのだ。
「外まで吹っ飛んだ愚か者を診てやるといい。暫くは起きれまい」
「誰が……愚か者だゴラァ!!」
沖田はフラつきながらも立ち上がった。みぞおちを押さえ吐血はしているものの、気は失っていなかった。
「っ!何と!ワシの
物外は驚いた。自ら編み出した武術【不遷流】の技を喰らって立ち上がった者は初めてだった。
「え……?ちょちょちょ、ちょっと待てぃぃ!!『デケェ坊さん』じゃ無かったのかよ?『
俺様は、みぞおちの痛みを忘れるくらい驚いた。
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