第30話
すっかり夜になった静かな町を、ただ手を引かれるがままに歩いた。
名前を知っているそんなに遠い駅ではなかったけれどはじめて降りた駅だった。
「こうしてると、僕ら、共犯って感じだね」
闇の中、つぶやかれた、呆れてしまうようなせりふ。
「なんで止めたの?」
まだ気持ちは晴れず、邪魔されたことへの苛立ちをぶつけようとした。
「止めるでしょふつう…」
今度は無視されなかった。
「ふつうって何。鳥は良くて人間はだめなの?」
「…だめに決まってる」
「ははっ。いのち差別じゃんね。はは、無害そうなあんたでも差別とかするんだー?ははっ」
「……だめだよ、人は。後戻りできなくなる」
頼りない街灯が一定距離を保って設置された川沿いを歩くわたしたちの会話は、ぜったいにふつうとはかけ離れている。
「後戻り……ははっ、もうできるわけないじゃない」
「できるよ」
簡単に言ってくれる。
わたし、犯罪者なのに。
「できるよ。鳥羽さんのふつう、取り戻そうよ」
「わたしのふつう………」
そんなものはきっともともと存在していなくて。
はたまた元の形状を忘れて馬鹿になったんだ。
「戻せるなら戻したいよ」
何度願っても元通りにはならなかった。
「治療は成功して後遺症もなくて、今までと同じだろって………ぜんぜん、ちがう。わたしには、もう、ぜんぜんちがうものなの」
跳ぶ瞬間、あの時の無残な脚が脳裏に浮かぶ。
また壊れたらどうしようって、怖気づく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます