第20話

「そうなんですよ、さね先輩」



わたしはさね先輩とはちがう。


だから、お願い。おねがい、だから。



「ただちょっと飽きちゃっただけで、わたし、跳べるんです。ははっ。ほんとに、ぜんぜん、ぜんぜん前みたいに、跳べる…同じように跳べるから……っ」




だからずっとわたしを見ていて。




「そっか、良かった。隼奈ちゃんもさっき自己ベスト更新したみたいだし、ふたりとも、本当に凄いよ」





飽きた、なんて言うなよとか。


練習してないなら跳べないだろ、とか。



事故は、本当に大丈夫だったのかとか。




言ってくれたら目が醒めた気がする。


だけどそんなこと以上に彼にとって “跳べるわたし” がふつうであって、


“跳べるわたし” と “跳べる誰か” は同じで。



どれでも都合の良い逃げる理由のひとつなことを悟って、全身から熱とちからが消えてった。




さね先輩にとっての、ほかの誰でもない何かになりたかったのに。


だから事故のことは言えないと思っていたし、知られたくなかった。失望されたくなかった。



そんなの杞憂だったね。

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