第18話
大きな男性を半分担いで歩くとなると、さすがに時間がかかってしまった。
余程辛いのか、初めは「次、右」などとナビをしてくれていた彼は段々と口数が減って、肩を組んだ私を引っ張るように住宅街をのっそりと歩いていった。
裏道だったのだろうか。最後の曲がり角を曲がった先に、大きな通りと綺麗な縦長の直方体が見えてきた。
その入り口に向かいながらポケットを探った後、握ったカードキーを手に持ったと思いきや、ペチ、という音とともに地面に落としてしまったから、私が拾ってドアのロックを解除する。
「何階ですか?」
「1番、上」
エレベーターに乗り、言われた通りに最上階のボタンを押すと少し重力を感じた。子どもならまだしも、大の大人がもたつくほどの強さではない筈なのに、ギリギリで立っている辺美さんは転けそうになっている。
目的の階層に辿り着くと、上品な音を鳴らしてドアが開いた。歩き出した彼について行く。ドアの前に着いて、さっき預かったカードキーを翳すとロックが解除され、咳き込みながらドアを開ける辺美さんの後を追った。
「ちらかってるけど、ごめんなさ、ゲホッ」
「い、いいですから!お邪魔します」
咳のせいで語尾が消えてしまった彼がサンダルを脱ぎ捨てるので、私も急いで靴を脱いで部屋の中へ入る。
廊下の先のドアが開くと、さっき辺美さんを抱えたときに微かに香ったサンダルウッドの匂いが一気に鼻腔へ流れ込んできた。
大きなワンルームのような様式になっているその部屋にはリビングとキッチン、それからベッドがあって、ソファの上には少し乱れたブランケットと服が掛かっている。
「キッチン、借りますね」
部屋に入るや否や、ソファに吸い込まれていった辺見さんに一応そう断りを入れてみたけれど、微動だにしなくなってしまったから聞こえているのかどうかは分からない。
部屋の奥の方、ガラス張りのベランダの手前にダブルベッドがあるけれど、そこへ辿り着く前に電池が切れてしまったらしく、ソファに突っ伏したまま寝息を立てていた。
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