春暁の恋

暁紅桜

1章_桜の木の下のメイドさん

第1話

春の暖かな気温。

埋もれるように沈んだベットに体を委ね、深い深い眠りにつく少女は小さな寝息をたてていた。


「雲雀―!いつまで寝てるのー!」


一階から母親の呼ぶ声が聞こえるが、少女はそれを少し煩わしく思いながら、そのままゴロリと反対方向を向いて眠りにつく。

心地いい夢の世界は、彼女にとって至福で、このままこの世界の住人になりたいと思った。


「雲雀!いい加減起きなさい。遅刻するわよ!」

「うぐっ……」


しかし、一瞬にして世界は崩壊し、目を覚ませば床の上に自分はいて、母親が怪訝そうに見下ろしてくる。


「お、はよう……」


全てを悟った少女は、少し申し訳なさそうに母親に挨拶をした。


◇◇◇


母親が部屋を出ていったあとは、二度寝をすることなく少女は着替えを開始する。

着ていたパジャマを脱ぎ、壁にかけてある制服に袖を通す。

部屋の隅に置いていた鞄を机の上に乗せ直して、忘れ物がないか再度確認し、同時に姿見で制服などの身だしなみを整えて部屋を出た。

階段を降り、浴室で軽く顔を洗ってもう一度鏡で髪を整え、おかしなところがないことを確認するとそのままリビングへと向かう。


「おはよう」

「やっと来た。朝ごはん冷めるわよ」

「はーい。いただきます」


テーブルに付き、用意された朝食に口を運ぶ。

向かいの席には、朝食を終えてのんびりコーヒーを飲みながら新聞を読む父の姿。

少女にとって日常的な光景。だけど、これも明日からは無くなってしまう。


「あ、私そろそろ行かないと」

「はい、お弁当」

「ありがとう」


カバンの中身を少し端に寄せ、少し大きめのお弁当を詰めていく。

そんな娘の様子を深々とため息をこぼしながら母親は見つめていた。


「全く。本当にあんたはだらしないんだから。明日から大丈夫なの?」

「平気だよ」

「雲雀、今日はまっすぐ帰ってきなさい。家政婦さん、今日から来られるから」

「はーい。いってきまーす」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る