カイダンドローム

阿澄思惟

1

これは私が体験した、本当にあったお話です。


私が小学生の頃、うちの近所で女の子が行方不明になるという事件があったんです。

当時、私はその行方不明になった子とすごく仲がよくて、事件が起きた日も、日暮れまで一緒に公園で遊んでたんですが、その子、夜になっても家に帰ってこなかったみたいで。

心配したその子の両親が警察に通報して、近所の捜索が行われたんですけど、それでもぜんぜん見つからなくて。

結局その子、それから何日かして、近くの山の中にある防空壕の廃墟で、遺体になって発見されたんです。


その子はきっと、何か理由があって夜の山に入って、道に迷ったんだろう。警察は最初そんなふうに考えてたみたいなんですが、それがしばらくして、急にその子の両親が、死体遺棄の容疑で警察に逮捕されたんです。

逮捕の決め手になったのは、防空壕のある山の近くに住む住民の目撃証言らしいんですが、それがどういうものかって言うと、女の子が行方不明になった次の日、なぜかその子の両親が、防空壕に通じる林道を歩いていた、って言うんですね。

その林道、場所的には住宅地のすぐ近くなんですけど、普段は立ち入り禁止になってるんで、近所の人も不審に思ったんでしょうね。


で、女の子の両親は「どうしてそんな場所にいたのか」っていう警察の質問に答えられなくて、ずっと意味不明なことを言い続けてたそうなんですが、でも、それからしばらくして、急にその二人への容疑が取り下げられることになったんです。

というのが、警察がいくら遺体や現場を調べても、その女の子の死に両親が関わった証拠が、どうしても出てこなかったんですね。


それで、最終的に女の子が死んだのは事件ではなくて事故だった、ということになって、その子の両親もどこかに引っ越して行って。私の周りでもこの時のことはだんだん忘れ去られていったんですけど。

実は私、その子が消えた時のことについて、誰にも言ってないことがひとつあるんです。


これは自分の両親にも、友人にも、もちろん警察にも話してない、というか話せなかったことなんですが、私、本当はその子が消えるところを、目の前で見てたんです。

変な話だと思われるでしょうけど、彼女、私が見てる前で本当にすーっと空中に消えていって。そのままいなくなってしまったんですよ。


でも、私は当時まだ子供でしたから、そのことが信じられなさすぎて夢だと思ってたし、第一「目の前で人が消えた」なんて自分でさえ信じられないのに、そんなことを大人に言っても絶対に信じてくれるわけない、と思って。

それで、言うか言わないか迷ってるうちに、その子が死体になって発見されて、いよいよ怖くて何も言えなくなっちゃったんですね。


あと、不思議なことがもう一つあって、私、その子が消えた日の夜に不思議な夢を見てるんです。

夢の中でその子、どんどん山の中に入って行って、私はそれを必死で追いかけてるんですけど、ぜんぜん追いつけなくて。そのうちにその子が真っ暗なトンネルの中に入ってしまって、私はその中に入るのが怖くて「どうしよう、どうしよう」と思ってるうちに目が覚めるっていう、そういう夢だったんですけど。

いま考えると、あれはあの子が私に宛てた、「自分を見つけて」というメッセージだったんじゃないかと思うんですね。

夢の中で私がトンネルだと思ったのは、あの子の遺体が発見された、防空壕の入り口だったんじゃないか、って。


それと、これは何の根拠もない想像なんですけど、もしかしたらその子の両親も、夢で彼女からのメッセージを受け取ったんじゃないかと私は思うんですよね。

だからあの子が消えた翌日、あの防空壕のある山に行ったんじゃないか、って。

だって、単なる仲のいい友達くらいの関係だった私の夢にすら、そういうメッセージが送られてきたんだったら、その子の実の両親になら、それこそもっとはっきりとした強いメッセージが送られてても、不思議はないじゃないですか。


もしあのとき私が勇気を出して、警察にあの子が消えたときのことを話してたら。夢で見た防空壕に、あの子を探しに行っていたら。

あの子は今頃、まだ生きてたのかなって。

そういうことを今でも、考えずにはいられないんですよね。


お聞きいただき、ありがとうございました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る