第41話 復活の真相

 「そちらへ行ったぞ!」


 剣で魔物をはじいたヴァレリアが、右方へ声を上げる。

 すると、そこには螺旋らせん状の炎が通った。


「うふふっ」

「グギャアッ!」


 ルーゼリアの炎だ。

 普段より狙いが定められた炎は、魔物を貫通して討伐する。

 うなずいたヴァレリアは、口角を上げた。


「そうだ。技はしぼって放つ。少し当てにくくはなるが、その分威力は増す。言った事がすぐにできるのは参ってしまうな」

「ま、まあ、お姉さんだし?」


 今の流れは、ヴァレリアとルーゼリアと合わせ技だったようだ。

 配信の序盤はヴァレリアを邪魔していたはずが、今では素直になっている。


《お姉さんがすっかり馴染んでるww》

《コンビネーションしちゃってる笑》

《褒められて嬉しかったのかな?w》

《ルーゼリアよりお姉さんしてて草》

《さすが師匠》

《相変わらずチョロくていいぜ》


 戦闘面、それ以外の立ち回りも含め、やはり師匠と言わざるを得ない。

 しかし、不慣れなこともあるようで。


《師匠さっきのやってください!》


「なっ!?」


 そのコメントには、冷静沈着な面持ちがくずれる。

 ヴァレリアはカナタへ振り返ると、恐る恐る確認した。


「どうしてもやらなくてはダメか……?」

「はい。それが配信です」

「な、ならば仕方あるまい」


 ヴァレリアはコホンと一息つくと、高い声で右手を上げた。


「いぇ、いぇーい、討伐できたね! もっと奥へ進んでいこー!」


 まるでアイドルのようなこの仕草は、音羽リラの真似だ。


《かわいいいいい!》

《年齢に合ってないwww》

《アイドル引退した人みたいw》

《それがいいんだろうが!》

《大人のお姉さんがやるのが良いんだよ……》

《ちゃんと全力でやってくれて好き》


 視聴者の反応に、ヴァレリアは真っ赤な顔を抑える。


「くっ、殺してくれぇ……」


 これは本日二度目のお披露目だ。

 先程、「配信者についてもっと聞きたい」と言ったヴァレリアに、ココネはあろうことかリラの切り抜きを見せた。


 そこでダークココネが出てしまったのだ。


『これぐらい出来ないと配信に出る資格はありません』 


 実直なヴァレリアはその言葉を信じ、全力でリラのものまねをやり切った。

 それが爆発的に盛り上がり、アンコールが起こっていたのだ。

 ヴァレリアは顔を抑えながら、チラッと指の隙間からカナタを覗く。


「カ、カナタはいつもこんな事をやっているのか?」

「もちろん(大嘘)」

「我が弟子ながらすごいな……」


 悪ノリに踊らされているようだ。

 すると、誰かがヴァレリアを後ろから抱きしめる。


「頑張ったわね。えらいえらい」

「……ママ」


 必殺“ミカの抱擁ほうよう”だ。


《なぐさめられてるwww》

《ヴァレリアさんかわいいな笑》

《素直なばかりに騙されてるw》

《魔王様は悪い弟子だ……》

《騎士でもママの前ではこうなるのか》

《やはりママ》

《ママの前では全てが無力》


 そんなこんながあり、ヴァレリアはすっかり愛されキャラとしても成立していた。






「結構進んできたなー」


 配信も後半に差し掛かり、カナタがふとつぶやく。


 ここはすでにダンジョン下層。

 終わりも見えてくる頃だった。

 そんな中、今更ながらカナタはたずねる。


「そういえば、どうして師匠はここに来たかったの?」


 このダンジョンはD級『ほら穴ダンジョン』。

 探索者資格を発行したヴァレリアは、上級ではなくても、C級までは潜ることが可能だ。

 てっきりC級へ行くものだと思っていたカナタだったが、ヴァレリアの希望でここへ探索に来たのだった。


 しかし、ヴァレリアは首を傾げる。


「ふむ。なぜと言われるとなんとも……」

「え?」

「ワタシも無意識のうちに選んでいたというか、なんというか……」

「ふーん?」


 曖昧あいまいなヴァレリアに、カナタも不思議がる。

 優柔不断な所を一切見せない彼女にしては、とても珍しい。

 

 ──だが、その原因はすぐに分かることになる。


「……! 全員ストップ!」


 突然、カナタが大きめの声を上げた。

 少々迫真にも思える声だ。

 それを示すよう、前方の宙から声が聞こえてくる。


「あの距離で気づきますか」

「!」


 人語を話す魔物──すなわち、魔人だ。

 約一か月ぶりの新個体である。

 魔人が近づいてくるにつれ、その姿が徐々に明らかになる。


「やはり能力が戻っているようですね」

「お、お前は……!」


 全体的には薄紫色。

 二本の角を生やし、手には怪しげなランタンがげられている。

 その特徴的な持ち物には、見覚えがあった。


死霊術師ネクロマンサーのマウロ!)


 異世界の魔王軍における、四天王の一人だ。

 死霊術師ネクロマンサーの称号で呼ばれ、霊や死者を操るとされる。

 しかし、マウロはたった一人だ。


 以前は大量の死霊を連れていたはずのマウロに、カナタは問いかける。


「何のつもりだ? お前一人で何ができる」

「フッ、手駒ならいるぞ」

「なに? ──ッ!」


 その瞬間、カナタのすぐ隣を剣閃が走る。

 【超感覚】でなんとか回避が間に合うが、カナタは目を見開いた。

 剣を振るったのが、ヴァレリアだったからだ。


「ワタシから、離れろ……!」

「師匠!? まさか!」


 カナタは再びマウロに振り返る。

 全てを察し、怒りを浮かべた目で。


「お前というやつは!」

「ようやく理解しましたか。彼女は私のいる場所に導かれたのですよ」

「……っ!」


 ヴァレリアは自分でも分からぬ内に、マウロの元へと連れられたのだ。

 異世界魔王軍の宿敵である、カナタを討ち取るために。

 さらに、マウロは両手を広げた。


「まだですよ──【死の門】」

「……!」


 同時に、左右から大きな門を出現させる。

 そこからは複数の巨大な魔物が召喚された。

 死霊術師ネクロマンサーの本領発揮だ。


 しかし、そんなことはどうでもいい。

 カナタはただ目の前の人が気がかりで仕方なかった。


「カナタ……!」

「し、師匠……!」


 死んだはずのヴァレリアが復活したのは、マウロに蘇生されたから。

 ヴァレリアの魂はマウロの意のままであり、生かされている・・・・・・・とも言える。


 つまり、マウロを倒せばヴァレリアも再び眠ってしまう。


「ショータイムの始まりです」

「……っ」


 カナタに、最も傷つけたくない相手が立ちはだかる。

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