第33話 マイミイ姉妹

<三人称視点>


「どうも、世間をお騒がせしてすみません。魔王です」


 土曜のお昼過ぎ。

 カナタはいつもの謝罪風挨拶あいさつから、配信を始めた。

 だが、普段とは違う場所からの開始だ。


《今日はダンジョン内からじゃない?》

《どっかの入口だな》

《入る前に開始が本来の常識だけどなw》

《あれ、ここって……》


 その場所に気づいた視聴者もいるようだ。

 カナタは、表に出せる事情を軽く話した。


「ここは数日前に封鎖された『わなわなダンジョン』の入口前です。実は、協会から依頼を受けまして、本日はここの調査を任されました」


 カナタは再び頭を下げる。


「ということで、本日の配信はスポンサー探索協会でお送りします」


《スポンサー探索協会!?》

《パワーワードすぎww》

《国家機関からの直接依頼はエグくて草》

《国を味方につけんなwww》

《もう国家公認じゃん》

《ついに日本も魔王の軍門に下ったか……》

《日本征服されちゃった》

 

 視聴者にはインパクトのみが伝わっているだろう。

 だが、これは他事務所への警告もねている。


 協会からの内密調査がバレ始めているため、変に隠すよりは牽制けんせいする意味でおおやけに認めた。

 その上で、“調査を任されるにはこの実力が必要だぞ”と見せつける算段だ。


 しかし、やはり納得いかない者もいる。

 そんな中の一人が、カナタの配信画面にずいっと入り込んできた。

 

「あら、先に配信始めてくれちゃって。これだから配信初心者は」


 高い身長に、おゆうな金髪。

 大人な雰囲気の女性は、笑みを浮かべて宣言した。

 

「今回は私も調査させてもらうわよ。もちろん協力なんてしないけどね!」


 その姿に、コメント欄が反応する。


《上級探索者のマイコじゃねえか!》

《だ、だれ?》

《見たことあるような……》

《結構ベテランじゃね》

《二つ名なかったっけ》

《“口だけのマイコ”だよ》


「ちょっとお、誰が口だけよお!」


 上級探索者『マイコ』。

 年齢は非公開。


 マイコは、カナタが内密調査を請け負っている噂を聞きつけた。

 そこで会長に「私も行かせろ」と直談判じかだんぱんし、今回の件に至る。

 会長としては、カナタに実力で黙らせてほしいのだろう。


 しかし、マイコはライバル意識を燃やしている。


「勝負よ、久遠カナタ! 私たちの方が協会の役に立てるってこと、教えてやるわ!」

「は、はあ……」


 すると、マイコは後ろを振り返った。

 マイコには相棒がいるのだ。


「ほらミイコ! あなたもビシっと言ってやりなさい!」

「……うん」


 妹のミイコだ。

 年齢は少し離れて18歳で、同じく上級探索者である。

 茶髪ショートという髪型もあり、マイコに比べるとおとなしめに見える。


 静かにカナタに近づいたミイコは──色紙を出した。

 

「魔王様、サインください」

「ちょっとおー!?」


 いきなりの裏切りだ。

 ミイコは魔王カナタのファンだった。


《ミイコちゃん正直www》

《SNSで好きって言ってたな》

《いつも通りだなあw》

《マイペースでかわいい》

《お辞儀が丁寧》

《妹はおしとやかなんだよなあ》


 これには視聴者も多く反応する。

 実は、ミイコは功績を多く残しており、優秀な探索者として有名だった。

 その見た目やマイペースな性格も相まり、それなりの人気を誇っている。


 サインをもらったミイコは、色紙を抱きしめた。


「えへへ。家宝にします」

「はは、ありがとう」

「敵にびを売るなあー!」


 嬉しそうなミイコに、マイコはツッコミ続ける。


《相変わらずの姉妹で草》

《性格も真逆なんだよなあw》

《あーマイコってミイコちゃんの姉か》

《見たことあると思ったら》

《姉妹で有名だよね》

《マイコはある意味だけどなw》

 

 そして、二人は姉妹の探索者として有名だった。

 二人合わせて『マイミイ姉妹』とも呼ばれている。


 しかし、妹のミイコに対して、マイコはそれほど実力がともなっていない。

 口調や性格も加味して、一部界隈では『口だけのマイコ、実力のミイコ』などとも揶揄やゆされている。


 マイコは気を取り直して、カナタへ目を向けた。


「そういえば、あなたの従魔たちお仲間はどうしたのかしら?」

「ん?」

「二人しか来てないようだけど、もしかして怖くて逃げだしちゃったとか?」


 カナタのそばには、ココネとミカママしかいない。

 マイコはぷぷぷっと口元に手を当てるが、カナタは細い目を浮かべた。


「あの、あんまりからかわない方が……」

「はい? ──って誰よ、後ろから」


 すると、マイコの肩にポンと手が乗せられる。

 マイコが振り返った先には、恐ろしい者が立っていた。


「呼んだ?」

「ぎょわああああああああああっ!?」


 顔に“赤い液体”を浴びたエルヴィだ。


《ぎゃー!》

《うわああああ!?》

《エルヴィちゃん!?》

《ホラーやめてえええ!》

《びっくりしたあ……》

《いきなり恐怖映像で草》

《これBANされるだろwww》


 高性能カメラなら、瞬時にモザイクがかかりそうなホラー映像だ。

 しかし、ざんぎゃく設定はOFFのまま。

 カナタはため息をつくと、エルヴィにハンカチを差し出した。


「また注入・・か?」

「うん! おいしかったあ」

「好きだなあ、トマトジュース」


 顔にかかっていたのは、ただのトマトジュースだったようだ。

 カメラもそれを検知していたのだろう。


 視聴者と共にまんまとだまされたマイコは、ぎりっと歯をみしめる。


「こ、そくな手段ね! ──ってあれ、急に空が暗く……」


 ぐぬぬと反抗しようとするが、突然辺りが暗くなり始めた。

 日光がさえぎられたのだ。

 すぐに上空から声が聞こえてくる。


「カナタくーん!」

「んなあっ……!?」


 その姿に、マイコは口をあんぐりさせる。

 空から降りてきたのは、巨大・・なバッグをかついだルーゼリアだ。

 ルーゼリアは勢いのままドガアッと着地し、辺りにつちぼこりを舞い上がらせた。


「カナタくん、お弁当持ってきたよ! 長丁場って聞いたからたくさん!」

「ほとんど君達でなくなるけどね」


 カナタへ飛んだ土埃は、ココネが氷でガードしている。

 しかし、マイコはもろに受けていた。


「けほっ、けほっ! ナメやがってえ!」


 ちなみに、ミイコは自分だけ防いでいた。


「バリアー」


《お姉さーん!w》

《人を巻き込んでますよwww》

《マイコは眼中にすらなくて草》

《あれ全部お弁当かよ!?》

《どんだけ食うんだ……》

《ピクニックだと思ってない?笑》

《まずそれを担いでるのやばすぎてw》

《こいつらツッコミが追いつかねえww》

《ミイコちゃん真顔で自分だけ守ってて草》

《マイペースなんだよなあ》

《マイコさんの味方はどこ?w》


 とにもかくにも、役者はそろったようだ。

 ダンジョンへ入る前に、マイコは改めて宣言する。


「く、久遠カナタ! 今回の調査はこっちが先に完了するんだから!」

「はあ」

「くれぐれも覚悟しておきなさいよね! 協会に私たちの方が役立つって認めさせてやるわ!」


 ビシッと指を向けると、マイコは配信を開始してダンジョンへ入っていく。


「いくわよ、ミイコ!」

「魔王様。私たちはすぐに追い抜かれると思いますので、後ほど」

「バカ、抜かされないように進むのよおー!」


 続けて、カナタ達もダンジョンへと足を踏み入れた。


「んじゃ、俺たちもボチボチ行くか」

「はい主様!」


 マイミイ姉妹、そして協会に苦情を送る他の事務所へ、調査の行うための実力を見せるために。


 しかし、この時はカナタはまだ知らない。

 今回の異変は、調査で初めてのアタリ・・・だということは──。

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