第一章 播埀国――火の戦
1
見渡すかぎりを紅蓮の炎がごうごうと包み込んでいた。ところどころで噴きあがる黒煙は渦を巻いて空を焼き、大気まで赤黒く染め上げられているようだった。
燃えているのは家屋、畑、畜生、そして人。うだるように熱い
煩いほどだった虫の音、
皮膚を焼くほどの灼熱にもかかわらず、
目の前の、若杉のように凛々しい男の立ち姿から目が離せなかった。その
「那束さま。なぜ前線に出たのです。御身に何かにありましたら――」
強くいさめるつもりだったのに、発せられた自分の声があまりに力無いことに愕然とした。衝撃が、あとを引いているのだ。
じっと
「そうだな。
火の粉がきらめきながら舞い散る中、血しぶきを全身に浴びた姿で穏やかに微笑んでみせた若き王に、保早呂は息を飲む。
(後ろで守っておこうと思ったのに)
保早呂の脳裏には、先ほどまでの
燃えさかる焔を切り裂くように馬を駆って躍り出た那束は、波のごとく打ち寄せる敵兵の太刀をことごとくかわし、ひとりひとりの急所を確実に切り裂いていった。
――そして今。敵国である
もう勝利は目前である。保早呂は汗をぬぐい、息を吐いた。
「これだけの兵数で囲んでいれば、
「いや、このまま
王からのねぎらいの言葉に、
「だが、ここまでくればこんなに多くの兵は必要ないな。前線に立った者を残し、あとは戦の始末にあたらせてくれ。指揮は
那束の言葉に、亜而利と呼ばれた壮年の偉丈夫は頷いた。亜而利は、保早呂と並び立つ日高見軍の
亜而利に従い、大勢の兵がぞろぞろと動きだした。彼らの残したうらやむ眼差しには、播埀王の首を取り、日高見が勝利する瞬間に立ち会えぬ悔しさがにじんでいる。それを残ることを許された兵たちが誇らしげに見送った。兵の視線はそのまま那束に注がれる。那束は、保早呂の目から見ても凛々しく、
(こんな、光を
確かに太刀を教えれば覚えもよく、筋もよく、まじめで、素直な弟のように思っていた。――その一方で、
(まるで、人が変わったような――)
「播埀王の
王の言葉に奮い立った兵たちが一斉に鬨の声を上げた。
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