◆転の段

第9話

藤原邸に銃弾が撃ち込まれたのは、それから3日ほどたった深夜のことでした。

住人である4人と、玄関付近の部屋に詰めていた基央さんの側近たちに、直接のケガはありません。


ただし、やはり拳銃を使った犯罪であること、近隣の住民が不安がって通報したことから、警察が出動する騒ぎとなり―――



升「チャマさん!」

直『あぁ秀ちゃん、大丈夫?平気?変な人とか物とか、何も見てない?』

升「うん、俺は大丈夫だよ。兄さんたちは?」

直『藤くんがヒロの部屋に行ってる。もしかしたら動けなくなってるかもしれないから』



夜目にもわかる笑顔に、ほっと安心します。

チャマさんが出てきたのが基央さんの部屋だったことや、着ているのがやけにサイズの大きいTシャツ1枚だけだったことは、この際目をつぶるとしましょう。



藤「チャマ」

直『あ、藤くん。ヒロは?大丈夫?』

藤「それが…いないんだ」

升「えっ?」

藤「部屋にいない。トイレとかも見たんだけど、どこにもいないんだよ」

直『うそ…!!』



そこへ、基央さんの部下の1人が走り寄ってきました。

何やらぼそぼそと耳打ちしている間に、基央さんの表情が険しくなっていきます。



直『…藤くん?』

藤「この一件の仕掛人がわかった。行ってくる」

直『待って、ヒロは?』

藤「いないとなると、最悪、そいつらに連れていかれたか…」

直『そんな!どうしてあいつを!』



チャマさんの声が遠く聞こえる気がしました。

どういう事情かは分かりません。ただ、今確かなのは“ヒロ兄がいなくなった”ということだけ。



升「…兄さん」

藤「なんだ」

升「ヒロ兄、本当に連れていかれたの?自分で出てった可能性はない?」

藤「どういう意味だ」

升「ヒロ兄の部屋のベッドの脇に、ボストンバッグがあるんだ。中身はよく知らないけど、物がたくさん詰め込まれてる。もしそれがなくなってたら…」

直『…そうだね。無理やり連れていかれたんなら、そんなの持ってけないもんね』



チャマさんが身を翻して、ヒロ兄の部屋へ走り出します。

一拍遅れて秀夫くんも後を追いました。



藤「おい!」

直『藤くんは心配しないで、そっちの仕事を片付けて!』

藤「でも!」

直『いいから任せて!』

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