第一章

第1話

どう?ほら、少し、変な気持ちになってこない?


――っ、く…


声、聞かせてくれないんだ。


――あ、ぁあ…っ


そう…そんな声を出すんだね。顔が見えないと、その分想像しちゃうね。


――や、いゃ…あぁ…


指、ちゃんと動かしてる?俺はもっと、奥までいきたいのに…


――ぁん…来て…


え?


――奥まで、入れたからっ…ほし、ぃ、あぁ…


もっと?もっと行っていいの?動くよ?


――あぁっ…や、い、いく、いっちゃう…


ダメだよ、ちゃま。まだだめ。


――お、ねがい…もう、あぁ…


俺のじゃないのに。自分の指のくせに。なんでそんなにエロいの?


――あ、ぁん…ごめ、ごめんなさ…ぁあ…


目を閉じて。…ほら、ちゃまの中、俺でいっぱいでしょ。ほんとは本物がほしいでしょ?


――ぅあ…も…許して…


許さない。もっと俺のこと考えて。ほら、壊しちゃうよ?もっと飲みたい?どうされたい?


――あぁ、っん!いや、だめぇ…中、おっき…ぃ!


やらしいね。おかしいよ、そんなに変なことしたいなんて。まだほしいの?俺がいいんだ?そんなに俺のがいいんだ?ほら、やるよ。しょうがない、なっ…


――あ、あっぁあ!いく、いくぅ…!!








電話の向こうがぷっつりと静かになった。

ひびくのは自分の荒い息だけ。

通話の終わった小さな機械が、ベッドに転がっている。


薄い壁の向こうにはリビング。そのまた向こうには藤くんの部屋がある。

家全体が暗い。

藤くんは今夜は夜通しバイトだから、俺のほかは誰もいない。



直『ふじくん…』



そっと壁に頭をついた。


直井由文、18歳。

藤原基央と同じアパートに住み始めて、半年ほど経った秋のことである。

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