第31話

直『いいよぉ、出来なくて。もし今藤くんが出てきたら、俺らのこと見て、“うわー老けたなー”とか言いそうじゃん!』

増「あー、ボソッとね(笑)」



外は快晴。

休日の真っ昼間から飲む酒は、旧知の仲間との相乗効果でいっそう旨く感じる。



升「おかわり」

増「ペース早っ!」

直『うちの店、泥酔の人お断りなんだけど?』

升「そこまで飲んでないじゃん」



青空の向こうのあいつも、笑ってくれているといいと思う。


2杯目のグラスを手にした時、店内にどこかで聞き覚えがあるようなないような…、そんな曲が流された。



―――I miss you, I miss you.



増「あれ?聞いたことある、これって何の曲だっけ」

直『え?もう懐メロだよ。20年近く前の曲』

升「洋楽でも懐メロって言うか?」

直『細かいこと言わないの』



流れる曲に合わせて、チャマが口ずさむ。

ヒロも小声で重ねる。


聞きながら思った。

どんなに言葉を尽くしても言い表せない気持ちがあるなら、いっそ何も言わない方がいいのかもしれない。

その方が強く心を打つこともある。


でも、それでも何かしらの言葉で表現したいとしたら…きっと、なるべく短い方がいい。



直『あい、みす、ゆ~♪』



微笑んでそう歌うチャマは、穏やかな表情だ。

未練も涙も永遠の別れも、全てを飲み込んだ、そんな穏やかさ。



升「…乾杯」

増「何に?」



首を傾げるヒロを見て、チャマが笑った。



直『そりゃ決まってるでしょ!俺ら3人が揃ったら。藤くんに!』





―――乾杯。





ポスターに向かって掲げられる3つのグラス。

チャマの手元で一瞬光る指輪。



あいつが、恥ずかしそうに笑った気がした。
















【了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る