【CD選評】=20XX年を振り返って=
音楽雑誌より抜粋
第28話
藤原基央の、そしてバンドの最後の作品となった本作は、彼らの原点に立ち返ったとも言うべき意欲作だった。
10代の頃の初期衝動に立ち返ったかのような、重くて勢いのある音。
ありもしないトラウマを聴き手に思い起こさせるような、恐ろしいほどに内面を抉る歌詞。
それなのに、ボーカルはそっと囁くのだ。
「俺もそうだよ」と。
もちろん十数年前に比べればずいぶんと音は洗練されているが、それでも“荒削りさをあえて残したのではないか?”と疑いたくなる。
レコード会社の面々に直接聞いてみたいぐらいだ。
それなのにここまで全体の完成度が高く聞こえるのは、やはり残された3人のなせる技だろうか。
彼らよりテクニックに長けた人間は大勢いるだろう。
彼らより大衆受けするキャラクターも、きっと沢山いるだろう。
でも、彼らより藤原基央の音楽を愛して、理解しようと努めたものはいない。
理解したいと願った者は、筆者自身も含めておそらく大勢いる。
しかしこのラストソングに魂を吹き込めた人間は、間違いなくあの3人だけだ。
“惜しい人間を亡くした”という言い方は、本当はしたくなかった。
各界から山のように押し寄せてくる追悼コメントが、この編集部にも溢れかえっている。
長年このバンドを追いかけて、記事を書き続けてきた自分に今言えることは、これだけ。
この曲をライブで、生で聴いてみたかった。
藤原基央に、もっともっと生きていてほしかった。
彼らのことを知らない人に伝えたい。
「こんなバンドが日本にあったんだ」と。
「この男が日本の音楽界にいてくれて、本当に良かった」と。
初期のトガりまくっていた彼らが好きだ。
その後のもがいていた前期も好きだし、悩み迷った中期も、答えの出た後期も、幸せに手をかけることが出来た現在も。
遺作となった新譜は、その全てを経験した人間だからこそ作れた、魂のロックだ。
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