side直

第16話

桜井さんの家へ向かう間ずっと、藤くんは黙ったままだった。

まぁ、タクシーの中で半透明な人と会話するわけにもいかないし、それでいいんだけど。


電話で教えられた通りの場所で車を降り、月明かりの下を2~3分も歩いただろうか。

ひっそりとした家の前に、知った顔を見つけた。



直『こんばんは』

桜「ごめんね、急に」

直『いえ。それより、話って…?』

桜「とりあえず中に入ろう。ここじゃ目立つ」



そう言って高い門の中へ招き入れられた。

飛び石をたどり、庭を横切る。


家族がいるという住居部分ではなく、敷地の隅に案内された。

一目で防音とわかる、小作りなスタジオみたいな建物だった。






中に入ると、やたらと沢山の楽器が視界に飛び込んできた。

色んな種類のギターやベース、ドラムセットにパーカッション、小物、鍵盤、シーケンサーの類まで所狭しと並べられている。



直『うわ…凄いですね』

桜「弾きたかったら、どれでも触っていいよ」

直『ありがとうございます』



桜井さん自身はピアノの前の椅子に逆向きに座り、背もたれに腕をかけた。

藤くんはオルガンの前を物珍しそうにウロウロ。

俺はアコースティックギターに手をのばす。



藤「チャマ、ちょい来て」

直『ん?』

藤「これの音を聞いてみたい。スイッチ入れて、弾いてみてくんね?」

直『おぃっす』



そんな俺たちのことを、じーっと見つめてくる視線。


やっぱりヘンだと思われてるんだろうなぁ…

そう思った時、桜井さんが胸ポケットから1枚の写真を取り出した。



桜「直井くん。藤原基央は、そこにいるんだね?」

直『え?…います、けど…』

桜「わかった」

直『な、何がわかったんですか』

桜「今日スタジオで、きみたちの写真を見た。鹿野さんが撮った集合写真だ」


直『あぁ…あそこにいたみんなで写したやつですね』

桜「それがこれ。俺の目がおかしくなったんじゃなければ、きみの隣に彼が写ってる」

直『えっ!?』



あわてて桜井さんの手元をのぞき込んだ。

ヒロや秀ちゃんの笑顔の隣に、俺。それと…



直『これ、は…』

藤「…なんで写ってんの?俺…」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る