プロローグ
side直
第1話
藤くんがいなくなってから10年以上が過ぎた。
早いもんだ。
あの時の騒動は、どれだけ時間がたっても昨日のことみたいに思い出せる。
突然だったし、俺たちも周りも本当に驚いた。
渦巻いていたのは悲しみと寂しさ、やり場のない怒り、わけがわからない程の混乱。
あとは…
それでも、永遠に続くかと思えた痛みも、年月が少しずつ癒やしてくれた。
それが良いことなのか悪いことなのかはわからないけど…、でも、あいつを忘れることはない。
俺もヒロも秀ちゃんも、みんなそう。
今でも連絡を取り合っている当時の関係者は、ほんの数人だけどね。
こないだ実家にヒロを招いた時も、そんな話になった。
やっぱりあのバンドは俺たちにとって唯一無二だったんだね、って。
でも、俺たちは死んだらバラバラになる。
藤くんがいなくなってもあの頃の雰囲気はずっと保たれてるけど、4人に血縁はないから。
死んだら、全員別の土の下だ。
増「じゃあさ、せめて何か同じ言葉でも、墓石に彫ってもらう?」
直『ん~…それ、藤くんがどう思うかなぁ』
増「いや(笑)、さすがに意思確認は出来ないし。3人で決めちゃっていいんじゃない?」
少し考えた後、俺は店に山のように置いてある古雑誌の中から1冊を抜き出した。
直『俺はいいや、これで』
増「?」
直『俺が死んだら…これ1冊、棺桶に入れてほしい。それで十分』
増「…あ。これって」
直『そう、あの時の』
黙ってその表紙を見つめていたヒロが、ぽつんと呟いた。
増「記事の部分、コピーとらせてくれない?俺もこれと一緒に埋められたいから」
直『……。わかった』
もうすぐ50に手が届く年だというのに、ヒロの柔らかい笑みは失われていない。
直『秀ちゃんの分も、とっとこうか』
増「そうだね」
それで、また3人で会おう。
近いうちに。
【青空の下、エピタフ】
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