第2話

最初から、へんなやつだなぁとは思ってたんだ。






裏通りのゴミ箱をあさっていた俺の背中にいきなり触れてきた手は、全く気配というものを感じさせなかった。


最悪だ、よりによって人間に触られるなんて。

こんなヘマをやらかすことは滅多にないのに。


だいたい何なんだろうコイツは?

でっかい荷物抱えてるわりに飄々として身軽そうで、痩せてるくせに意外としっかりした骨の手をして。

…そして。



―――なー…



触れられた瞬間、背中が温かくなった。

驚いてその場から走り去る。

ちくしょう、あのゴミ箱にはいつも割と食いやすいもんが入ってるのに。






しばらく脚を動かして、大通りまで出た。

なんだか居たたまれないような気持ちになってる自分に気づき、どうしてあんな人間のために俺が気を遣わなくちゃいけないんだと思う。

まぁいいさ、とりあえず距離は置いたし、もう二度と会うこともないだろう。



その時、すぐ目の前のラーメン屋の扉が開き、店のおばちゃんが俺に向かって「しっしっ」と手を振った。

あー、真夏だったら水ぶっかけられてるパターンだよこれ。



ゴミや路地裏の小動物などを糧に生きる俺たちは“ノラ猫”と呼ばれ、街の邪魔者扱いされてる。

俺に言わせれば、生まれてきた以上は死ぬまで生きるしかないんだから、たとえどんな方法でも頑張るしかねぇだろって感じなんだけど。


だいたいさ、人間に飼われてる猫たちには、自力で生きていこうっていう本能が欠けてるんだよ。






…などと偉そうなゴタクを並べてみても、腹は減るわけで。

くるりと尻尾を立てて、別のエサ場へ向かう。



途中で頭の毛を妙な色に染めた若い人間に、「やっべー黒猫見ちまった、やっべー」とか言って石を投げられた。

やばいのはオマエの頭だろと言ってやりたかったが、いかんせんあいつらは猫語を解さない。

仕方ないので、知らんぷりでなるべく堂々と通り過ぎてやる。

その時だった。




「あ、また会ったね」


―――にゃっ!?


「あぁ待って、逃げないでよ」


―――シャーッ!!




だーかーら、なんでまた出てくんだよ!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る