パート5: スキル?【吸収】発動!
もはやヤケクソだった。
ダンジョンクリーパーに向かって、プルプルの体をぶつけていく。
どうせ死ぬなら、一矢報いる……なんて格好の良いものではない。ただ、何もしないで殺されるのが嫌だっただけだ。常識的に考えれば、豆腐が岩にぶつかるようなもの。俺の貧弱なスライムボディが、あの硬質な甲殻を持つ魔物に敵うはずがない。俺自身も、次の瞬間には潰されて消滅するのだろうと覚悟していた。
グニュ……。
(……え?)
予想していた衝撃は、来なかった。
代わりに、ダンジョンクリーパーに触れた部分から、奇妙な感覚が伝わってきた。
潰れるのではなく、まるで相手が俺の体に「沈み込んで」くるような……粘土に指を押し込むような、そんな感覚。
「ギ……ギギィィィッ!?」
ダンジョンクリーパーが、苦悶とも驚愕ともつかない、甲高い断末魔のような叫び声を上げた。
俺の体に触れた部分から、その硬い殻がまるで溶けるように、あるいは吸い込まれるように、俺の内部へと取り込まれていく!
(な、なんだこれ!?)
俺の意思とは関係なく、スライムの体が生き物のようにダンジョンクリーパーを包み込もうとしていた。
巨大な蟲は必死に抵抗し、鎌や足をもがき動かすが、その動きは俺の体に触れるたびに鈍くなっていく。まるで沼に足を取られたかのように、その巨体がどんどん俺の体に取り込まれていくのだ。
ゾワゾワとした悪寒が走る。
これは、俺の力なのか?
敵を溶かし、取り込む?
内部から感じるのは、ダンジョンクリーパーの断末魔の苦悶と、生命が消えていく生々しい感覚。そして、俺自身の体の中で、異物が分解され、未知のエネルギーに変換されていくような……生理的な嫌悪感と、得体のしれない力への畏怖がないまぜになった感情が渦巻く。
「ギィ……ィ……」
抵抗は次第に弱まり、そして、ついにダンジョンクリーパーの動きが完全に止まった。
俺の体に取り込まれ、その姿は跡形もなく消え去っていた。
……。
シン……。
洞窟に、静寂が戻った。
さっきまでの死闘が嘘のように、そこには俺――一匹の青いスライムだけが、プルプルと震えながら存在していた。
体には傷一つない。
だが、精神的な疲労感と、先ほどの出来事への混乱で、頭がどうにかなりそうだった。
(……え? 消えた? 俺が……やったのか?)
何が起こったのか、まったく理解できない。
ただ、自分が生きていること、そして目の前の脅威が消え去ったことだけが、唯一の事実だった。
俺は、その場に呆然と立ち尽くす……いや、スライムだから、ただその場でプルプルと揺れていることしかできなかった。
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