パート2: プルプルボディの現実
絶望に打ちひしがれていても、腹は減らないが(そもそも腹という器官があるのか?)、状況が好転するわけでもない。
少しだけ落ち着きを取り戻し、俺は改めて自分の体……このスライムボディを観察してみることにした。
プルプル。指でつつくような感覚で自分の表面に触れてみる。想像通り、ゼリーのような弾力がある。強く押せば歪むし、離せば元に戻る。物理的な防御力は皆無に等しいだろう。
光が差し込まないこの薄暗い洞窟でも、自分の体が青く半透明であることはなんとなく分かる。中心部には、少し色の濃い「核」のようなものが見える。これが俺の本体、あるいは弱点なのだろうか。
(匂いは……よく分からん。味は……試したくないな)
五感も曖昧だ。視覚はかろうじてあるようだが、ぼんやりとしている。聴覚もあるようだが、これも精度は高くなさそうだ。触覚は……体全体が触覚みたいなものか?
(とにかく、このままじゃマズい)
生き残るためには、まず移動手段を確立しなければならない。
俺は意識を集中し、体を動かすことに専念した。
前へ、前へ。
にゅる……。
(お、動いた!)
体の一部を前に伸ばし、そこに全体重……いや、全体スライム重? を移動させる。いわゆる蠕動(ぜんどう)運動というやつだ。
カタツムリやミミズのような動き。我ながら情けない。
にゅる……にゅる……。
遅い。とにかく遅い。
全速力でこれか? これでどうやって敵から逃げろと?
焦りが募る。もっと早く、もっと効率的に動けないのか?
意識を集中し、もっと強く地面を蹴るイメージで体を動かす。
ぷるん! ぺちゃ!
(あいたっ! ……いや、痛くはないけど)
勢いをつけすぎたのか、バランスを崩して壁に激突してしまった。
スライムの体は衝撃を吸収するが、精神的なダメージは大きい。
自分がひたすらに無力で、情けない存在であることを思い知らされる。
移動しながら、改めて周囲の環境を観察する。
壁は湿っており、そこかしこに緑色や紫色の気味の悪い苔が生えている。天井からは絶えず水滴が落ち、小さな水たまりを作っていた。空気はひんやりと冷たく、淀んでいて、カビ臭いような、土臭いような、なんとも言えない匂いが漂っている。
遠くからは、時折、何かが擦れるような音や、低いうなり声のようなものが聞こえてくる気がする。
(絶対に、まともな場所じゃない……)
RPGで言えば、序盤のダンジョン。初心者向けのモンスターがいるエリア……のはずだが、今の俺にとってはどんなモンスターも脅威だ。スライムが主人公のゲームなんて聞いたことがない。大抵は、最初に倒される雑魚キャラだ。
最弱の体。
カタツムリ並みの移動速度。
そこら中に危険が潜んでいそうな、このダンジョン。
(詰んでる……完全に詰んでるじゃないか……)
希望なんて、どこにも見当たらない。
ブラック企業で培った(?)諦めの境地が、再び俺の心を支配し始めていた。
いっそ、このままどこかの魔物に食われてしまった方が楽なのかもしれない。
そんなネガティブな思考が、プルプルと震える体の中で渦巻いていた。
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