勇者を庇って眠らされたら、千年後の未来で精神体の魔王と一緒に目覚めた話

黒淵カカ

プロローグ

 人魔大戦


 それは魔族率いる魔王が引き起こした、人類種への五百と十数年継続した史上最も大きく苛烈な戦争。

 双方に甚大な被害を出し続けたその大戦は、人類種側に誕生した二人の英雄とその仲間たちの手により、人類種側の勝利で幕引きを迎えた。



 苦しむ人々、死に向かう人々、絶望する人々を見捨てられず、どれだけ劣勢な状況であってもその身より溢れ出す勇気と共に立ち向かい、終わりの見えない戦いの中で視界を暗くしていた人々に希望の輝きを見せた。

 人類種がその英知と技術を合わせて磨き上げた内より光を放つ聖剣、並大抵の呪いを跳ね除けてその挫けない意思と同じく決して壊れない聖鎧。

 その二つを携えながら、砕けない勇気を人々に見せ続けるその姿より、一人の英雄は勇者と呼ばれ希望の象徴となった。


 神の声を聞く、聖典を暗記する、神の救いを示唆する……

 そうしたことが一切無いまま、人々の中にある善性を信じて、善性を与えれば次へと繋がり、そして未来へと善性が繋がっていくのだと信じていた。

 そのために飢える人々に食事を分け与え、涙を流す人々に胸を貸し、傷付く人々を背負い、死にゆく人々に涙を流し、いつか明るい未来が来るのだと胸を張って前を向きながら日常を生き続けていた。

 特別が一切存在しない布の端切れを繋ぎ合わせたようなボロボロのローブで身を包み、武器ではなく他者を救うための医療道具をその手に持って大戦広がる世界を歩き回っていた。

 究極的な善性を体現したその姿を見た人々より、もう一人の英雄は聖女と呼ばれ善性を繋ぎ続ける懸け橋の証明となった。



 そして二人の英雄は賛同者を仲間に付け、大戦を終わらせるために魔族を絶滅させるのではなく、魔族を率いる魔王に話を付けるための旅路に出た。

 多くの出会いと別れ、喧嘩と仲直り、道を違えては再び合流しそして違えてまた合流する。決して楽な旅路ではなく、はっきりとした希望も救いも見えているわけではない旅路であった。

 だが、それでも旅路を同じくする人々はこの果てに救いがあるのだと、この果てに笑って青空を見ることが出来る日々がくるのだと、信じて旅路を続けていた。



 そして旅路は美しき幕引きを迎える。

 勇者も聖女も失われることなく、ある盲執に囚われた魔王を悠久の眠りに付かせることで大戦に終幕を訪れさせた。

 永遠に続くかと思われた大戦の最後は、たった一人だけが犠牲となり終わった。

 勇者の友人であり聖女の義兄であった、少し力自慢なだけの戦士一人だけの犠牲で。



 **********



 意識が微睡みと共に白濁していく。

 視界はもうぼやけて何も見えない、聴覚も薄れてしまって殆ど聞こえない。

 体が崩れ落ちていく途中で止められ、それと同時に足の先が何処かへと消えていく感覚がする。


『貴様………』


 見えない視界、聞こえない聴覚、それらを乗り越えて半透明な姿の頭部に捻じれた角を生やした青肌の大男が絶句したような姿と声を見せてくる。

 不倶戴天の大敵、そう思っていた大戦の首謀者であり黒幕の魔王。その本質は特別以上の存在だった幼馴染の夢である、世界征服を成し遂げようとしていた何処にでもいる悪ガキのようだった男。

 図星を突かれるまでは余裕綽々として、図星を突かれた後も大して余裕を崩さなかったそんな男が、絶句している様に胸がすっきりとする。


 意識が落ちていく、身体が消えていく。


 笑ってざまぁみろとでも言ってやりたいが、残念なことにそれが出来るだけの体力を残せていないので出来ない。

 いや、最後に一言二言程度ならば吐き捨てられる。だがそれをただの悪ガキなんかにくれてやる理由も意義も存在しないので出来ない。

 むしろ、言い残したい言葉すらも言い残せなくなりそうなので、さっさと言ってしまって微睡みに全てを委ねて眠るとしよう。

 風の音、呼吸の音すらも聞こえなくなってきたことだしな。



「幸せになれよ、お前ら。俺のことなんて忘れちまうくらいにさ」



 届いているかは分からんが、届いていると信じて言葉を紡ぐ。

 俺の体感としてははっきりと伝えきれたと思っている。本音を言うならしっかりと顔を見て、抱きしめながら言葉を紡いでやりたかったんだがな。

 まぁ俺の命よりも、世界なんかよりもずっと大切な妹と友人が幸せになるために命を使い潰せたんだから、俺は今の時代の誰よりも幸せだろうな。



 だからこそ、今の俺なんか比にならないくらいに幸せになって欲しい。

 死ぬことを後悔から惜しむんじゃなくて、幸せだから死にたくないって思えるくらいには幸せになってくれ。

 そしたら、多分、俺は気持ち良く成仏できる気がするからさ。

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