第42話 いざ夕刻ダンジョンへ

 研究所を訪れた翌日。


 俺はみなみと2人で夕刻ダンジョンに到着していた。


「ここが夕刻ダンジョンだよ」

「よし、来たな」


 目の前に見えるのはダンジョンの入り口。


 都会ゆえかしっかり入り口は整備されている。


 近くには警備員もいて、誤ってダンジョンに入らないような仕組みが施されていた。



 電車を乗り継いでここまで来たんだが、道中話しかけてくる奴が多くて面倒だったな。


「周りがうるさかったな」

「滅也くんも私みたいにマスクをすればいいんだよ。ウィッグとかつけていれば人が多くてもバレないよ?」

「それはそれでめんどくせぇだろ」


 一時的に黒色のウィッグをつけていたから、みなみは自分のことだとバレることはなかったらしい。


「やや! もしかしてあなたは天城滅也さんではないですか!?」


 こちらに気づいた警備員の男が話しかけてくる。


「そうだが」

「おお! よもやこんな所であなたに会えるとは。今日はこちらのダンジョンを攻略するので?」

「まぁな。ここは強い魔物が多いんだろ?」

「ええええ。まだ不明な点も多いですが、奥にはかなり強力な魔物が潜んでいるでしょうね。傾向的に“S級”の魔物がいる確率は高いでしょうな」

「いいねぇ」

「……実を言うと桐島才人の一件以来、私はあなたのファンなのですよ。桐島は仕事の関係で何度か見かけたことがありますが、何となく私は好きになれない人種だと思っていたのです。あの配信はスカッとしましたよ!」

「そうか」

「ではいってらっしゃいませ! お連れの方も! 陰ながら応援していますよ!」


 警備員から送り出しの言葉を受けながら、俺達はダンジョンの中に入っていく。もちろん初めてのダンジョンだから階層転移は使えない。帰りには使えるけどな。


「良い人もいるんだね」

「どうでもいいな」

「あはは、滅也くんだねぇ」


 話もそこそこに俺は周りを見渡す。中はN252ダンジョンと似たような感じで洞窟そのものだ。細かい所は違う感じがするが。


「目新しさはねぇな」

「うーん確かに見た目はあんまり変わらないかもね」

「ダンジョンはどこもこんな感じなのか?」

「そんなことないよ。砂漠とか森林とか様々な地形が存在するよ」

「そうなのか」


 みなみがウィッグを外しながら答える。


 今後はそんなダンジョンに出会うこともあるのかねぇ。



 コツコツと音を鳴らしながらダンジョンの中を歩いていくと、奥から何者が走ってきた。


「ギィィ!!」

「あ、ホブゴブリンだね。E級の魔物だよ」

「そういやいたなこんな奴。久しぶりに見たな」


 緑色のちっちゃい人間みたいな魔物。


 最近はめっきり見なくなっていたが、子供の頃に何度も戦ったホブゴブリン。


 あの頃は結構苦戦した記憶があるな。懐かしい。

 

 俺たちを認識すると、ニタァと嫌らしい笑顔を浮かべて、手に持った尖った石を掲げて走ってきた。


「ほい」


 べちゃん


 軽く頭を叩くだけで首がちぎれ、頭がトマトみたいにぺしゃんこになった。血は緑色だが。


「グロイ……流石だね滅也くん」

「こんなんじゃ戦いにもならねぇじゃねえか。さっさと下に行くぞ」

「あ、ちょっと!」


 ダッシュで下へ行くための階段を探し始める。


 みなみ曰く有名なダンジョンには地図が開拓されていたりするらしいか、ここは最近見つかったダンジョン故に地図がまだ出回ってないらしい。


 だからとりあえず適当に探すしかない。



「あったぞ」



 数分後、次の階層への階段を見つけた。



「よし、もっと下に行くぞ」

「ちょ、ちょっと待って〜!」



 こんな調子で階段を見つけ続け、気づけば15階層へ行く階段まで到達していた。



「15階くらいまで来たか」

「はぁ……はぁ……そうだった……滅也くんとダンジョンに潜ると……はぁ……こうなるんだった……はぁ」


 後ろからみなみが息を切らす声が聞こえてくる。


「強い魔物と戦いたいんだから仕方ねぇだろ」

「そうだけど…………ふぅ……やっと落ち着いてきた」


 みなみをよそに、俺は階段を降りながら、次の魔物に期待を寄せる。


 そろそろ強い奴こねぇかな。



 階段を降りた瞬間、さっそく1体の魔物がお出迎えだ。


「何だこのカラフルな鳥」

「マーブルバード……! C級上位の魔物で私も倒した事があるけどかなりきつかったよ!」


 少しデカくなったアヒルみたいな奴がいた。


 ただ体色がカラフルで明らかに普通の生物ではない。


「滅也くんごめん、ここは私にやらせてくれないかな」

「別にいいぞ」

「ありがとう!」


 まぁあんまり強くなさそうだしな。


 俺が承諾すると、みなみは鳥の前に立ちはだかる。


 階段降りたばかりだから道は狭い。ただそれにより相手も逃げ場がないだろう。


 マーブルバードは羽を羽ばたかせ、こちらを威嚇していた。



「先手必勝! 『水刃』!」

 


 みなみは三日月型の水の刃を放つ。


「クェェー!」


 ただマーブルバードは羽の側面を使ってその刃を明後日の方向へ受け流した。


「っ! 避けられるよね! だけどこれはどうかな! 『泡水』」


 手を大きく回し、そこからシャボン玉のような泡を産み出す。


 その泡はふよふよとマーブルバードの下へ向かって行った。


「クェ?」


 マーブルバードは不思議そうにその泡をつつく。


 パシャン!


「クェー!?」


 泡が破裂し、そこから水が溢れ出してマーブルバードの注意を奪う。


「ここ! 『圧縮水砲』!」


 その隙にマーブルバードに対して水の水砲を放ち、直撃させる。


 マーブルバードは咄嗟に羽で守るが、先程のように攻撃を受け流すことができず体を貫かれた。


「クェエ……」


 バタン


 体に風穴を開けたマーブルバードはそのまま倒れ、魔石を残して消滅した。


「やった! 前回はこれでも全然倒しきれなくて結局ジリ貧になっちゃったから……やっぱり成長してる……!」


 みなみは自分の成長を喜ぶ。



 ただその時――横穴から新たな魔物が顔を出す。



 2体目のマーブルバードだ。


「もう1匹!? まずい!」


 それに気づいたみなみは即座に顔を強張らせ、臨戦態勢に入るが――



 パーン!



 すかさず俺がマーブルバードを殴り、あっという間に消滅させた。




「終わったぞ」

「あはは、そうだよね……滅也くんなら楽勝だよね…………先は遠いなぁ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る