第40話 変わった魔道具士

 みなみがスマホで住所を調べた所、ここから徒歩30分程のあたりにあるらしい。


 早速俺たちはそこへ向かう。


 道中あや姉の話をしつつ、30分後、目的地付近までたどり着く。


「なかなか来ない場所だよね」

「ええ、違う町みたい」


 ちらちら見える家に加え、墓や竹やぶなど普段見慣れない風景が広がる。


 土地の高低差もあり、時折坂を登り降りする必要があった。


 この辺りはもう森も多く、完璧に田舎に来たような感じだ。



 砂利が混じる道を歩いていくと、その奥、森に囲まれた場所に一つの小さい施設がポツンと立っていた。


 ここにあるのが不自然なほどに新品同然のキラキラした研究所のような建物である。


「なんだありゃ」

「不気味ね」

「ど、どんな人がいるんだろう……」


 程なくして俺達は扉の前まで到達。



 様子を伺いながら、桃葉は恐る恐る扉を叩く。


 トントン



「すいませーん!」




 …………反応がない。




「? いないのかしら」

「もう一回言ってみよ! ごめんなさーい! 彩華さんの紹介で来ましたー!」




 ………やはり返事がない。




 よし。



「入っちまおうぜ。なぁ、邪魔するぜ?」



 ガチャ



 鍵が閉められているということはなく、あっさりとドアが開く。


「全くもう……勝手に開けると――え!?」


 建物の中はまさに研究所。


 何かを作り出すための装置や、パソコンがずらっと並んでいる。


 部分部分大量のコードが床から伸び、諸々の機械につながっている。


 加えて部品や金具、魔石などがそこらに転がっていた。



 ただ1番俺たちの目を引くものはそうではない。



 ――目の前に、機械や部品の山に埋もれた1人の女の子がいた。



「大丈夫ですか!?」

 

 みなみが慌てて山を取り除き、中の女の子を救出する。


 引っ張り出された女は気がついたように目を開いた。


「けほっ! けほっ! ふぅ……すまない助かったよ。どうも体を動かしていないから筋肉が衰えてしまってね。一気に持ち運ぼうとしたのは無謀の挑戦だったようだ」

「無事でよかったです……」

「…………ちょっと可愛いわね」

「おい」


 女は少し咳き込んだ後、生き返ったように安らかな顔を浮かべる。



 少し乱れた長めの白髪。


 服の上に白衣を纏っており、身長は低めだが、胸が大きく主張している。



 その女は立ち上がると、俺を見てニヤリと笑った。


「君が天城滅也君だね。動画で見てからずっと会いたかったんだよ。今まで出会えなくてすまないね。天というのは実に悪戯なものでね、いくらこちらから歩み寄ろうにも決して尻尾を振ってはくれないのさ。ただこうして相まみえる奇跡というものも存在するのだから面白いものだね。いっそのこと運命というものについて研究してみようとも思っているのだけど、どうも実態のないものを捉えるのは私には不向きらしい。驚くほどに手が進まないから、そのことにも疑問符が尽きないんだよ。そうそう疑問符と言えば、私が前コンビニに行った時に――」

「「「ながい」」」


 満場一致で同じ感想が口から出る。


「おっとすまないね。久々の来客だからつい口が弾んでしまったよ。いやぁ引きこもりの辛いところだねぇ。食料と材料の調達以外に外出をしないとこうなるのは必然なのだよ。いやいや、私だって努力はしたさ。喋りたい欲求が爆発しないように日頃からロボットに話しかける癖をつけようと試みていたのだけど中々どうして上手くいかなくてね。結局は独り言で済ませてしまうのだけど、喋る相手がいない会話というもの程空虚なものはない。独り言をやめようか、続けようか迷って――」

「「「だからながいって」」」


 再度同じツッコミを入れる。


 こいつ放っておいたら延々と話し続けるんじゃねえか?


 俺たちから2度の指摘を食らった女は頭を触りながらはははと笑う。


「重ねてすまないね。そこまで言うなら頑張って抑えてみようじゃないか。私にとっても初の試みだから成功するかとっても不安なんだけどね」

「そのくらいで話してもらえると……助かります」

「敬語なんてよしたまえよ。我々は共に空間を共有する同士だ。もはや同級生と言ってもいい。そこに敬語なんて無粋なものはいらないよ」

「同級生……ってのは分からないけど、タメ口で良いんだね! じゃあそうさせてもらうよ!」

「おお、その方が実に話しやすいよ! 君の性格がよりはっきりと見えてくるね。それにしてもなんだい? 同級生に疑問とは。  私が歳をとっているとでも言いたいのかい? ふふ、まだピチピチの18歳(自称)なんだよ」

「自称って言ってるじゃない。ただ本当の年齢は……見た目じゃ分かりにくいわね」

「それが本当だったら私とあんまり変わらないね」


 確かに成人しているように見える一方、未だ高校生くらいにも見えないことはない。


 小さな体で妙に怪しげな雰囲気を醸している所が分かりにくい理由なのかもしれないな。


「おっと自己紹介が遅れたね。私の名はシロネ。ひっそりと魔道具士をやっている」

「じゃあシロネちゃんだね! 私はみなみ! こっちの黒髪の女の子が桃葉ちゃんで、知ってると思うけどこの人が滅也くん!」

「よろしく頼むわよ」

「よろしくな」

「みなみ君に桃葉君。良い名前だ。こちらこそよろしく頼むよ。そして滅也君、君のことはよーく知ってるよ。動画やネットの情報のみならず、彩華君からも聞き及んでいるからね」

「あや姉から? あいつ何を話してんだか……」 

「そうだとも。中々破天荒な生き方をしているみたいだからね。私も君に興味が湧いたのだよ」


 シロネは目を光らせてこちらを覗く。


「さてと、そろそろ要件を聞こうじゃないか」

「あ、そうだった……ちょっと頼みがあってきたんだ」


 みなみはシロネに詳細を話す。


 その話をシロネは面白そうに聞いていた。


「……てことなんだ」

「なるほどなるほど。身を守る魔道具が欲しいと。確かにそれは私以外には難しいかもしれないねぇ……」

「シロネはもの凄い魔道具士なのかしら?」

「ふふ、どうだろうねぇ。ただ唯一無二の腕を持ち合わせているつもりだよ」


 そう言うと、俺たちに背を向けて右手でこちらにジェスチャーをする。


「ついてきたまえ。良いものを見せてあげよう」

「いいもの?」

「いいからいこうぜ」


 シロネに従って俺たちは歩き出す。


 様々な機械や、散らかっている道具の間を縫いながら、奥にある他の部屋の入り口に差し掛かる。


 シロネがセンサーのようなものに手を翳すと独りでに扉が左右へ開かれていった。


「この奥だよ」


 俺たちは3人がその部屋の中に入り、揃って奥を見渡す。


「うわぁ」

「凄い……」

「壮観だな」


 そこには大小様々なロボットが鎮座していた。


 丸みを帯びたものや、アニメに出てきそうなカクカクとしたもの。はたまた犬型やトカゲ型、カラフルなものから白一色のものまで幅広い種類のロボットが立っていた。


「これが私の発明したロボットだ。総称して『自動防衛システム』と呼んでいる。私に身の危険が迫ると自動的にスイッチが入り私を守ってくれるのだよ」

「驚いたわ……現代でここまで近未来を感じさせる機械を作り出しているなんて……」

「シロネって一体何者……?」

「ふふっ、それは乙女の秘密だ」


 シロネはおどけた様子でそう返した。



 ただそんなことより俺はこいつらの雰囲気に刺激される。



「強そうだな」

「流石、お目が高いね。その強度は……驚かないでくれたまえ。1体1体がなんとA級探索者をも凌ぐほどなんだよ」

「「え!?」」


 みなみと桃葉が驚きの声をあげる。


「ふふん、凄いだろう? こんな魔道具を作れるのは世界でも私くらいだろうねぇ。おっと、このことは秘密だよ? 下手に目をつけられたら大変だからねぇ」

「い、言えないよ! こんなこと!」

「私達……とんでもない人に今会ってるんじゃ……」

「へぇ……よく分からんがすげえってことか」


 最初の間抜けな登場とは打って変わって、あや姉の言う通り実力は確かということか。


「そうだ、天城滅也君。このロボットと戦ってみてはくれないか?」

「お? いいのか?」

「いいさいいさ。存分にに暴れてくれたまえ。君の強さをこの目で見てみたいのだよ。画面越しで見るだけでは満足出来なくてね」

「へぇ……いいじゃねえか」


 今日はダンジョンに行けてなかったから体が疼いてた所だ。ちょうどいい。


 


 複数体のロボットと俺は対峙した。

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