過去
=side藤=
第24話
昼食後は皆に促されるまま、ご主人さまのお供についた。
増川が馬車を操り、俺がお話し相手をする。
つい数時間前までのぎこちなさが嘘のように、それは楽しいひとときだった。
直『でも俺たちさぁ、これからお茶に招待されてるってのに、あんなにプリン食べちゃって(笑)』
藤「え、あの程度なら全然…」
直『うそっ!?俺けっこーヤバイよ。藤くんよっぽど甘いもん好きなんだね』
感心したように言われても、俺はどうしたらいいのか分からない…。
あらためてお会いしてみると、リウ様はとても感じの良い方だった。
使用人にも分け隔てなくお茶やお菓子を振る舞ってくださるし、話題も豊富でうるさすぎない程度に盛り上げて、しかも他の人間に喋らせるのが上手い。
せっかくなのでシンという従者とも話がしてみたかったが、あいにく今は里帰り中とのことだった。
直『残念だなぁ。そうだ、今度は良かったらウチに遊びに来てよ。シン君も一緒にさ』
リ「あぁ、じゃあそうさせてもらおうかな」
直『いいよね藤くん?』
藤「もちろんでございます」
余裕たっぷりにそう答えたら、隣に控えていた増川がクスッと笑みを漏らした。
…まぁ、そうだよな。
ついこの前までの俺だったら、こんなことを聞かれたらひどく落ち着かない気持ちになっていたはずなのにね。
帰り際、農園で収穫したばかりだという苺をお土産にもらい、ジャムのレシピまで付けて頂いて、ご主人さまはいたく満足げな様子だった。
おおかた、升と一緒に苺ジャムを作ってみんなで食べる場面でも想像しているのだろう。
直『あ、そーだ…ねぇヒロ!!』
増「…はい!?何でございますか!」
藤「ちょっ…」
いつぞやと同じく、いきなり窓から身を乗り出して御者席に声をかける姿が危なっかしくて、俺は慌ててその背に手をかける。
直『大丈夫だよ、少しだけ。ねぇヒロさー、あそこわかる?あの山の麓にある湖!』
藤「え」
増「あぁ…確か、畔に保養地のようなロッジがいくつか建てられている所ですか!?」
直『そーそー!あそこ寄れないかな、ちょっと遠回りなんだけどー!』
藤「あの、」
増「構いませんよー!夕食の時間は少し遅くなってしまいますが!」
…というわけで、執事の意見は全く聞かれることもなく、寄り道が決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます