=side直=

第21話

――そこまでしなくていいよ、それじゃまるで子供扱いじゃん!




いや、子供扱いされてもしょうがないだろ。

台所へ向かう途中、自分の発言を思い出して溜息をついた。


何しろ元を辿れば使用人なんかよりよっぽどヤバい生活を送ってた自分のことだ、まだ教わらなきゃいけないことは山積みだろう。


そして教えを請うべき人間の筆頭が“藤原”。

あの執事に拾われていなければ、きっと俺は未だに夜毎違う相手に身をまかせる生活から抜け出せていなかったはずだから。


それを考えれば、きちんと俺のことを見て指導してくれるのを邪険にしちゃいけない。そんなの当然じゃん。

…ただ、たださ。



直『こんちゃーっす。秀ちゃん、来たよー』

藤「あ、どうも」

直『!?あれ?え?』



なんでこの人がここにいんの?俺、秀ちゃんと約束してたはずだよね?



藤「申し訳ありません。升に頼んで、お約束の時間を乗っ取らせて頂きました」

直『はあ…』



遠慮がちな笑顔で、視線を少しそらして。

うーん、そんなこと言われちゃうと…参ったな…怒ってるとか機嫌が悪いとかじゃなくて、もうどうやって喋ったらいいかわかんないよ。

そんな気持ちが胸に渦巻き、下を向いて立ち尽くす俺。



藤「…やはり、ご不快ですよね。やめるべきです…ね」

直『あぁっ、待って違うよ!そうじゃないよ、いいからここにいてよ!』



思わずそう叫んだら、「よろしいのですか」と戸惑ったような表情が返ってくる。

この人もこんな顔するんだ、って新鮮な印象を受けた。

同時に、いつもと違う彼の一面が見れた気がして、ちょっと嬉しくなった。



直『その…俺、怒ったりとかしてないから。藤原がイヤで避けてたわけじゃないし…。せっかくだから、一緒に昼メシ作ろ』



ただ、あんなに頑張って頑張って勉強して、教養とやらを詰め込んだのにさ。まだまだだって言われた気がしたんだ。まぁ実際まだまだなんだろうけど。

でも、だからこそ悔しかった。それだけなんだ。



藤「…このところ、升からお料理を教わっていらっしゃるとか」

直『あー…うん。ごめんなさい』

藤「?どうしてお謝りになるのです?」

直『だって、そんなの主人がやるべきことじゃないでしょ。前も言われたけど、使用人との区別をちゃんとつけないといけないのに…』



そう言ったら、執事は慌てたように俺に歩み寄ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る