=side増=
第19話
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シャッとカーテンを開ければ、目の前に陽の光にあふれた庭が広がる。
増「おはようございます」
直『…ん~…』
増「今日も良い天気ですよ」
窓を開ければ、みずみずしい空気が流れ込んでくる。
庭からは若葉とバラの、そして台所からは…
直『あぁいい匂い。腹減ったぁ』
確かに。この広い屋敷内のすみずみに至るまで、小麦とバターの香りが充満している。
増「今日はパン生地からこねておりましたからね」
直『秀ちゃん?』
増「ええ」
あれから5日間ほど過ぎた。
夜会の翌日に声を荒げて以来、ご主人さまはろくに藤原と口をきいていない。
かわりに自分や秀ちゃんと過ごす時間がぐんと増えた。
そして、口うるさい執事が離れたのを良いことに、おおっぴらに“ヒロ”や“秀ちゃん”という呼称を使うようになった。
増「朝食はどちらで召し上がりますか?こちらにお運び致しましょうか」
直『うん、お願い』
にっこりと笑う顔に見送られ、台所へ下がる。
しかし、ここのところ地味に忙しくて仕方ない。
本来は執事の仕事である給仕を…いや、ご主人さまの身の回りの世話全般を、一手に引き受けるようになってしまったのだから。
増「ひっでちゃーん、出来た?」
升「いい具合に焼けたぞ。出血大サービス、特製オムレツ付き。こっちが俺たちの分な」
増「やっべ超うまそう!ねぇジャムある?」
升「バラのジャムなら残ってるけど」
増「それ俺キープね!藤原に食わせないで!」
升「保証は出来ないなぁ、俺もちょっとは食いたいし。早いもん勝ちだろ」
増「えぇっ」
なるべく急いでご主人さま用の食事を部屋へ運び、台所へとって返すと、そこには既に着席済みの執事の姿があった。
増「あーっ、ジャム!俺のジャムは!?」
藤「みへほほーり、ほほっへぅ。はいほーふはっへ」
増「え!?何、この人何て言ってんの!?」
升「見ての通り残ってる、大丈夫だって。つぅか藤原、口にもの詰め込んで喋るな」
そんなに美味しいと思ってもらってるなら光栄だけど。
ぼそっとそんなことを言うと、園丁さんは新聞に目を落としながらパンをかじった。
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