第20話
店に着いた。
照明は付いているのに、ひどく暗く見えた。
―――店内には、2つの人影があった。
俺を見てにこりと微笑むチャマ。
…そして、静かに床に崩れ落ちる。
慌てて駆け寄ると、右腕に深い傷が見えた。
意識がはっきりしているのが、かえって痛みから逃れられない原因となり、その表情を歪ませていた。
カウンターの近くには、左手に大きなナイフを握りしめたヒロの姿があった。
―――左利きの人間が刃物を持って向かってきたら、被害者は右半身に傷を負わされる。
そうだ。
秀ちゃんの傷も、右腕だった…
ヒロに掴みかかろうとする俺を、チャマの絶叫が阻んだ。
直『やめて藤くん!俺が刺せって言ったんだ、ヒロは何も悪くない!秀ちゃんの時だって、そそのかしたのは俺だ!!』
何もかも信じられなかった。
ヒロが秀ちゃんやチャマを刺したということも、チャマが今言ったことも、全部悪い夢だとしか思えなかった。
藤「どういうことだ?ヒロ、おまえ…本当に…」
増「…………」
藤「答えろ!!」
そう怒鳴りつけると、今度こそ殴り倒す。
増「おまえがチャマにしたこと、全部聞いたよ」
藤「……っ」
予期せぬ方向からパンチが飛んできて、一瞬ひるむ俺。
床に転がりながらも、唐突に口を開いたヒロは、堰を切ったように話し始めた。
増「だから俺も全部言う。秀ちゃんを刺したのは、俺。刺せって言ったのは秀ちゃん。ナイフを俺に渡したのは…チャマだよ。もっともチャマは、本気でやれって言ったわけじゃないけどね」
熱に浮かされているのを必死で自制しているかのような低い口調で、聞けば聞くほど現実味がなくなるばかりだった。
増「あと、今ここでチャマを刺したのも俺。…以上」
以上って。
とりあえず発表が終わった、みたいなその言い方が、あまりにも場違いで。あまりにもバカバカしくて。
…チャマと俺は、顔を見合わせて笑った。
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