第15話

終わりが見えない。

自分でも自分がわからない。


唄うことがとても大事なのは確かだけれど、言ってしまえばたかが音楽じゃないか。

チャマをこんなふうに扱ってまで作る必要がどこにある?


でも、それでも、彼ならきっと理解してくれる。

俺の曲の意味を。

音楽というものがどういう存在なのかを。


…3人なら、絶対にわかってくれるのに。






その時だった。

無限の思考から引き戻すように、チャマが俺の前に手をついてきた。



―――藤くん、今日は曲作らないの?



薄い笑いとともに、その唇が動く。



―――だったら、しようよ。気持ちいいから…



そんなの嘘に決まってる。

いつも『痛い』って言いかけては、必死で堪えてるだろう、おまえ。



―――好きだよ、藤くん。もっと全然、めちゃくちゃにしてくれていいから…



抜け殻みたいだと思った。

でも、たとえそれが偽りに根差したものだとしても、たった1人に愛してもらえるなら…



―――ふじくん、…ぁ、はぁ…

―――何だよ…おまえまだ足りねぇの?

―――は、あぁ…もっとして、ほしい…



嘘つけ。嘘つけ。嘘つけ!



―――っ…はぁ、…ありがたく思えよ。おまえみたいな、やつの、…くっ…相手してくれる、…俺に…

―――やぁん、あ、すごい、もっと…あぁん!はぁっ…






どうしたら道がひらける?

俺には、チャマと闇しかないのに。






意識を飛ばしたかのように眠るチャマの髪をそっと撫でた後、ベランダに出た。

闇に浮かび上がる携帯の光。

…丁寧に操作を終え、室内へ戻った。






同じ携帯が鳴ったのは、窓から差し込む光が南を過ぎて、西に傾いてからのこと。


伝えられた内容は、俺がベランダにいたのと同じ頃…その日の未明に、1人の人間が死んだというものだった。


自宅で遺体発見。

右腕上部に、刃物で刺されたような深い傷あり。


しかしそれは、本来であれば致命傷になるようなものではなく、誰かが故意に病院や救急への連絡をしなかったのではないかと。


体内からゆっくりと血液が失われていくのを感じながら、長い時間かけて死に至った可能性が高いと。


アルコールは検出されなかった。

残されたのは、遺体と、疑問だけ。




死者の名は、升秀夫といった。

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