人材派遣の賢者様!【カクヨム版】

ゆきむら燎

 

プロローグ

00

 その日——

 俺は疲れていた。


 そこそこ順風満帆だった俺の人生、最初の挫折を味わったのは今から一年ちょっと前のこと。

 教師一家に生まれ育ち、子供の頃から疑うことなく信じていた『学校の先生になる』という夢が、ある日突然崩れ去った。

 採用試験に、落ちたのである。


 理由は教えてもらえなかったが、まあ、自分で言うのも何だが第一印象が良くないせいだろう。雰囲気が暗いとか目つきが怖いとか、昔から良く言われた。


 ただ、決して良くはないが悪すぎるほどでもないと自負している。普通だ普通。だいたい科学教師が爽やかイケメンである必要などないんだ。

 俺だって背は平均より高いし、運動神経は人並み。どちゃくそ重たい黒髪が根暗な陰キャのイメージを醸しているらしいが、教師を目指している以上染める訳にもいかないし、少ないのよりは間違いなくマシなはず。

 大切なのは知識量。生徒の知的好奇心にどれだけ応じてやれるか、判断基準はそれだけだと思っていたし、そこには自信があったんだ。


 だからこそ落胆は大きい。


 唐突に突きつけられた『無職』の二文字。他にやりたい仕事もないし、中途採用の可能性があるから定職に就くこともできない。

 そんな訳で短期バイトを渡り歩くフリーター生活が始まった。いつかどこかの中学校で理科の先生のポストが空くまでの辛抱だと己に言い聞かせ。


 が、人生そう甘くはなかった。

 一年が過ぎ、いよいよ俺の脳裏に諦めの文字がちらつき始める。

 先生には、なれないかも知れない。希望などとうに擦り切れた頃だ。

 疲れた頭でぼんやり求人情報誌を見ていると、知らない人材派遣会社の、死ぬほどあやしい宣伝文句が俺の目に飛び込んできた。


『勇者の仲間、急募! 明るくアットホームな仲間(パーティ)です。あなたも異世界を救いませんか?』


 三度見くらいした。

 勇者? 異世界? ——ゲームのメンバーか何かか。あるいは映画のスタッフ。

 そんなもの求人情報誌に載せるか普通? どう考えたっておかしい。まともじゃない。あれか。何かの隠語か。当たり障りのない言葉で人を釣る、いわゆる闇バイトってやつ。


 職種:賢者。

 採用人数:一名。

 資格:不問。自然科学の専門知識がある方優遇。あなたの能力を活かせる職場です。

 給与:完全出来高制。

 その他:面接にて説明します。


 やばい。

 何だこれ意味分からない。

 賢者とは具体的に何をする仕事なんだ。


 さっぱり分からないが……思いっきり心を擽られてしまった。

 自然科学の専門知識を活かせる職場だと? そんなものが科学教師以外に存在するのか?


 もう一度言う。

 いや何度でも言う。

 不肖俺、高階たかしな優斗ゆうと二十三歳。フリーター歴一年ちょいのペーパーティーチャー。その時は軽い肉体労働のバイトあがりで疲れていた。


 本当に、頭の芯まで、クタクタだったんだ。

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