第8話 海デートは明日なのに



【愛流! 明日遊ぼう!】


【ごめーん! ちょっと明日はデートなの笑】


 そんなメッセージのやり取りを萌々寝と交わした。

 終業式を終えて明日から夏休み突入っていう、学生なら誰しもがハイテンションで胸が踊る日の夜。


 あたしは、柄にもなく緊張なんかしていた。だって!


【デート!? 愛流、恋人、できちゃったの……?】


【違うよ! 猫桃ちゃんと海に行くんだって!】


 スマートフォンの向こう側で、叱られた子犬みたいに耳を折り畳む萌々寝の姿が見えるみたいだった。あたしは、慌てて訂正する。

 ……けど、個人的にはバリバリデートって気分で行くんだけど、さ。


【……そうなのね! 精々楽しんできなさいよ! 愛流が不安で、どうしてもって言うなら、萌々寝が付いて行ってあげてもいいんだからね!】


【ありがと。朝起きて寂しくなったら、連絡するね】


 除け者にされるのが寂しくて、ちょっと遠回しな構ってアピールをする萌々寝を見ていると、ほっこりする。


「よし! 最後のシミュレーションしますかね!」


 和んだところで、あたしは部屋にある姿見の前で、先日或留好と萌々寝の三人で買いに行った、ミントグリーンの水着に着替える。


 ……一応、二週間ちょっと、筋トレとかしてみたけど、効果はあったかな?


「う、うん! こう、なんか、シックスパック予備軍の候補生くらいの筋肉は付いた気がする!」


 パット見全く変化がない自分の身体を無理やり褒めてみる。

 ほら、人間期待されると伸びるっていうし。

 実際全然変わってなくても、前向きなアプローチをすれば、いいことが起きるかも?


 なんていう都合のいい現実逃避に浸りながら、あたしは水着を脱いだ。


【愛流ちゃーん! 明日、楽しみだね!】


【う、うん! そ、そうだね! あたしも、楽しみだよ!】 


 何だこいつ! どうして文字打つだけなのにドモってるんだよ!

 萌々寝相手の時と比べると明らかに緊張してるのがわかる文面に、羞恥心で身が焦げるようだった。


 ああ、それにしてもまさか学園に咲くネモフィラなんて呼ばれてる猫桃ちゃんと、サシで海に行けるだなんて!


 或留好とかいう疫病神に憑かれた時は神様を恨んだけど、今は土下座しながら感謝してます! 人生最高!


「着替え、タオル、スプレー、デオドラントシート、……一応、勝負パンツ?」


 一応って何だよ、一応って!

 そんな、猫桃ちゃんみたいな天使が、田舎の中学生みたいな軽はずみな行動に流されるはずがないじゃん! ……まあでも? 人生何が起こるかわからないし、備えだけはしておこうね?


「うひゃっ」


 ぶぶぶ~! と、スマートフォンが、まるで煩悩にまみれたあたしに警告するみたいに震えた。……どっちだろ? 猫桃ちゃん? それとも萌々寝?

 首をひねったあたしの予想は、幸か不幸か的中することはなかった。


【……どうやら、風邪を引いたようだ】


 メッセージの送信者は、疫病神であり頭痛の種である、或留好だった。


「……や、あたしにどうしろっていうのよ?」


 悩んだ挙げ句、既読スルーして眠ることにした。

 わはははは! 或留好め、散々あたしを弄ぶから罰が当たったんだ! 今日は枕を高くして眠れるよ! 嬉しい!


 そう粋がってベッドに入ったあたしが眠りにつくまで、普段の三倍は時間がかかったのだった。

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