第4話

この学校は幼稚園から大学院まである一貫校で、多くの人は大学までの19年間をこの学校で過ごす。

そんななか私は中学校時代を別の場所で過ごした。

理由は単純かつ不純で、拓弥くんと一緒に学校生活を送りたかったから。

…まぁ拓弥くんは教師で、なかなか"一緒に"は厳しかったけど。それでも、同じ校舎で送った3年間はとても幸せなものだった。

…本当はこの学校に戻ってきたくはなかったけど、無理言って中学校を外部の学校に通わせてくれたパパとママとの約束。

2人は、私が3年間も違うところで過ごして、戻ったその後の学校生活が大変なものになってしまうのではないかと危惧していた。

だけどその問題以前に、私はクラスに馴染めていなく、居づらい空間だった。


端的に言えば、無視されていたのだ。クラスメートたちから。


直接問い詰めたわけではないから理由ははっきりとは知らないが、きっと妬まれていたのだ。パパは聞けばみんなが知っているような会社の社長だし、ママはアメリカ人だから私はハーフできっと顔立ちは整っている方、そんなみんなが羨むような環境に居る私は頭が悪い。そんな人がクラスに居て、気分は良いものじゃないだろう。

小学校でそんな出来事があり、通うのが辛くなった。自分では現状をどうしたら変えられるのか分からず、1人でベッドで泣いた。今この状態をパパやママに知られたら、悲しませるんじゃないかと思って相談もできなかった。

そんな中で唯一の救いだったのが拓弥くんの存在で、拓弥くんのおかげで、無事に小学校を卒業できた。

小学校では授業中、事ある毎にグループ学習だと言って4人くらいの班を作らされる。その中でも無視をされていた私は課題を終わらせることができず、家に持ち帰って泣きながらやっていた。

別にクラスメートとの関係を拓弥くんに相談した訳じゃない。でもきっと顔や仕草から、読み取らせてしまったのかもしれない。

あの時の事は今でも良く覚えている。

あの日いつものように家で泣きながら課題をしている時、拓弥くんが部屋に入ってきたのだ。突然すぎて涙を拭うこともできずに、水滴のせいで少しよれたプリントの上で鉛筆を握りしめた拳が少し震えた。

まだ流れ続けている涙を見て顔を少ししかめた拓弥くんは、優しい顔をしながら私の隣に座った。

拓弥くん、どうして、と、声にならなかった。唇が震えるだけの私の頭を拓弥くんは一撫でし、手が止まっていた箇所の助言をくれる。

そうして拓弥くんにわからない部分を教えてもらいながらいつもよりも早く終わらせることができた課題を先生に提出した時の誇らしさは今でも覚えている。

拓弥くんは教員になり忙しかったろうに、その後も1人で課題をしていると静かに部屋に入ってきて、側にいてくれた。ずっと悲しく、寂しいだけだった時間が、拓弥くんのお陰で楽しい時間に変わった。

無視されることも課題を1人でやることも拓弥くんが側にいてくれる理由になって、毎日が楽しくなった。

拓弥くんには出会った瞬間的好きになって、いわゆる一目惚れだったが、どんどん深くなっていく想いに心が踊った。

そんな小学校時代を送った私が拓弥くんが通勤している中学校に通おうと思ったのは必然だ。

そして小学校でも良い印象を抱かれていなかった私が外部の中学校に進学後、高校に上がると同時に戻ってきたんだからクラスメートも気まずいのだろう。この2年とちょっとの月日で実感した。

さすがに今、無視と言う幼稚なことはされておらず、グループワークやペアワークの時に一緒に組んでくれる子達は見つかったけど、それ以上の関係にはなかなかなれなかった。私も友達作りに積極的ではなく、小学校から3年間も離れてしまったクラスメートたちの間に、私の入る隙間はなかった。クラス替えの無いことが、それにさらに拍車をかけたような気がする。

結果孤立してしまった。休み時間に話し相手は誰もいなく、1人で自席に座り、本や教科書を開いて時間を潰す。

まぁ高校卒業までの残りの数ヵ月で友達を作ろうと言う気は更々ない。

この学校に通う生徒は、有り体に言ってしまうと、お金持ちが多い。

学力もそう低いわけではないが、多少成績が足りなくてもその家にお金があれば関係ない。

…残念ながらかく言う私もその口で、正直頭はそこまでよろしくない。だから拓弥くんに家庭教師を頼むことになったんだけど。

そんな全体的にお金持ちが通う学校だが、さらにクラスによってランク分けされており、私が所属しているこのA組は、この学年ではトップの金持ち集団と言っても過言ではない。もちろんこんなこと声を大にして宣言されているわけではないが、すでに公然の秘密となっている。

まぁそんな訳で特別煌びやかと言うわけでもないが、一度別の輪を体験してしまうと、その独特な空気感のなかに戻りたいと思うことはなく、上手く馴染めなかった。


まぁつまり、私はこのクラスで"浮いて"いる。

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