第2章 ペルレ大迷宮編

第20話 王都からペルレへ(1)

「ギャァッ。」


 トロールの頭にクルトの棍棒が食い込む。きっと頭蓋を割って、10~20cmは陥没させているのだろう。ひょっとしてもう終わったのだろうか。一声吠えた後、頭を下ろしてかがんだ姿勢のままトロールは動かない。だがまだ倒れていないせいか、クルトは追撃を加える。肩、背中、腕、足と棍棒が振り下ろされ、陥没し裂けて血が流れる。青い血という事はイカと同じヘモシアニンで酸素を運ぶタイプか。圧勝した感じに、そんなどうでもいい事を考えてしまった。トロールが体を揺らして地面に崩れ落ちると、クルトも攻撃を止め俺に振り返る。


「オデ、コイツ倒した。

 イモくれ。」


 催促するクルトに俺は芋をほうった。それをキャッチしてかぶり付くクルト。わざわざ洗っていないのでちょっと土も付いているが、いつもの事なのでお互い気にしない。

 あ、ヤバイ。


「クルト、後ろぉっ。」


 俺は叫ぶがクルトはそれを気にせず、芋を食べ続ける。コイツは反応が遅いのだ。トロールは一度、気配が消えそうになったが、クルトが芋を食べ始めた辺りで再び復活した様に感じた。


「グオォォォッ。」


 クルトの背後でトロールが立ち上がり、クルトのよりデカい棍棒でクルトの背中を打った。勢いに負けてすっ転ぶクルト。


「ご主人様。

 確実に止めを刺さなくては、

 トロールはなかなか死なんぞ。」


「バカヤローッ、それを早く言え。」


「すまない。かくなる上は私がトロールを。」


「せんでいい。

 お前は俺の守りに集中しろ。」


 よく見ると陥没した頭を始め、体中の怪我が治っていくように見える。ゲームで言う再生能力リジェネレーションか。くそ。


「クルトォーーーっ。

 立ち上がれっ。ソイツをぶっ叩け。」


 トロールの巨大な棍棒で打たれたクルトだが、ゆっくりと起き上がる。身長2mを超える大男クルトと身長約3mのトロール。大きさは圧倒的にトロールが優勢だが、棍棒での殴り合いはほぼ互角のまま続く。

 そして恐ろしい事にクルトはトロールに殴られても、あまり効いている様子が無い。もちろん打たれた服は裂け、そこから覗く肌には酷いあざや裂傷が見えるが、クルトはそれをほとんど気にした様子が無いのだ。

 だがトロールは傷が見る間に回復するので、長期戦になればクルトに勝ち目は無いだろう。って言うか、トロールと足を止めて殴り合うってだけで、すげぇぞクルト。


「ご主人様、やはり私も。」


「ダメだ。クルトの棍棒でも大したダメージを与えられないのだ。

 俺の槍や、お前の剣が効くとは思えない。


 クルトぉ~~~っ、ソイツを橋から落とせぇ~~~。」


 クルトは俺の命令に戸惑った様だったが、しばらくして棍棒を捨てトロールに張り手の様な打撃で押し始める。


「オデ、押す。」


 トロールは微妙に棍棒の距離より内側に入られて、攻めにくそうにったりしながら徐々に後退する。元々橋の前にいたトロールは次第に橋へと入り込んでいった。俺はヴァルを伴って、トロールを迂回すると橋の真ん中へと回り込み槍を振る。


「クルトぉ~~~っ、こっちだ。

 ソイツをここから押し出せ。」


「おおおっ。」


 クルトはジワジワとトロールを端へと寄せていく。


「ヴァル、俺達も行くぞ。

 ただし、お前は俺の守りに専念だ。」


 俺はトロールの後ろから膝裏やふくらはぎ、足首を槍で突き刺す。ほとんど通っていないが、クルトに押されながらなので、そんな事でも体勢を崩し易くなる。俺を払いけようと手を振り回すトロールだが、俺は探知スキルでそれを感知すると無理をせず後ろに下がる。その時。


「オガガァ~~~っ。」


 クルトが雄叫びを上げながら張り手を決め、トロールが橋から宙へと投げ出される。


「ウォオォォォ~~~っ。」


 絶叫を上げ谷底へと落下していくトロール。


 バッシャ~~~ン。


「イェ~~~イ、やったぜ。」


 俺は思わず、普段はないノリで感嘆を上げてしまった。


「オデ、やった。

 イモくれ。」


「ああ、いいぞ。

 それ。」


 今回の手柄は間違いなくクルトの物だ。俺はクルトの要求に快く応え、蕪と芋を10個ずつくらい手渡した。その場でむしゃぶりつくクルト。これはしばらく動きそうもない。俺はクルトをその場にいるよう命じると、ヴァルと二人で荷物の回収に行く。


 ロバのメリーさんや荷車を回収して橋を渡る俺達。だが、俺はトロールが谷底から上がってきそうな気配を感じる。ヤバイな。あれだけトロールに叩かれながら大きな怪我はないクルトだが、実は今、足を引きっている。それでも二輪カートをける様だが、移動速度は大幅に落ちている。くそ、まだ上がってくるなよ。


 橋を通り過ぎ、トロールと一旦距離を空けた俺達だったが、ついにい上がったのか開いた距離が徐々に縮まっていくのが俺には分かった。

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