第16話「呪われた勾玉と波の影」
暗闇の中、一筋の光が差し込む。そこに立つのは、黄金の髪を持つ少女――太陽の巫女マドカ。
彼女の手には古びた木箱があり、その中には運命を決めるタロットカードが静かに眠っている。
マドカは優しく微笑みながら、その箱を胎児の魂に向かって差し出した。
「あなたの運命を選びなさい。どの母胎から生まれたいのかを……」
箱の蓋が開くと、そこには五枚のカードが並べられていた。
それぞれが異なる運命を持つ、東・西・南・北、そして中央の母親。
◆東の母親:チヒロ
失われたものを探し続ける母。彷徨いの果てにたどり着いた先にあるものは……。
◆西の母親:サトカ
不注意が生んだ悲劇を抱えながらも、新たな命に希望を託す母。
◆南の母親:アンナ
宗教と血の宿命に生きる母。彼女を選べば、魂は試練を受けることになる。
◆北の母親:マドカ
過去の罪と向き合う母。彼女の選択が、すべてを覆すかもしれない。
◆中央の母親:???
何者でもなく、何者にもなれる存在。
胎児の魂は静かにカードに手を伸ばし、自らの運命を決める。
マドカはそっと囁く。
「どの道を選んでも、あなたはあなた。さあ、選びなさい――」
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**第十六話:呪われた勾玉と波の影**
アンナの青い瞳が狂気に染まる。
「トモエを返して、その子の勾玉は私のものよ、お母さん。」
マドカは怯えるトモエを抱きしめ、アンナの冷徹な瞳を見つめる。
「トモエは……あなたの一部なの? アンナ……。」
アンナは笑みを浮かべる。
「そうよ。ウロコのチェーンソーが私の魂の勾玉をかすめた時、その小さな欠片がトモエになったの。
まだ無垢だった、5歳の私……。」
リネンが息を呑む。
「トモエをアンナに渡してはいけない……これが彼女の呪われた魂の勾玉の最後の欠片なんだ。」
ウロコは警戒の視線を向け、刃を構える。
「アンナが狂気の面を見せた時、赤の王様の影を感じた。でも、彼女の中にはもう一人、アンヘリーナ・ボゥア・フランシスカがいる……。
どのみち、魂の勾玉ごと砕いて倒さないといけない。」
「でも……本当のアンナは、きっと良い子なんだよ……。」
リネンの迷いをよそに、アンナは手を伸ばし、トモエを奪おうとする。
「洗礼が必要なのよ、お母さん。」
その瞬間、ティピーハウスの外から大きな波が押し寄せ、全てを飲み込んだ。
マドカの手からトモエが離れ、波の中に消えていく。
「トモエ! 待って、お願い!」
波は夢の世界を揺るがし、アンナの嘲笑が響く中、マドカの絶望の叫びがこだまする。
「私の魂を返して……私を望まれなかった胎児として、再び閉じ込めないで……!」
波が静まり、夢の世界には冷たい静寂が戻る。
マドカ、ウロコ、リネン――彼らはトモエを失い、アンナの呪いの深さを改めて痛感した。
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ゆめのつづき
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### 第十六話:魂の器
静寂に包まれた明月荘の一室で、マドカは母チヒロの話に耳を傾けていた。
「……赤の王様は、太陽の巫女たちの魂を喰らい、不老不死になったのよ」
チヒロの声は震えていた。
「何千年分の魂を……?」
マドカの声はかすれた。
「そう……それでも彼の命は永遠ではないの。夢の中で魂を砕かれたら、その時点で奪った魂はすべて散ってしまうわ。太陽の巫女たちの魂は、東脳や中天、海市を渡り、母胎のゆりかごに還る……」
チヒロの言葉が落ちると、マドカは思い出した。
——かつて、母親ヒロコが語っていた「黄泉の国」の話。
***
### 魂の行方
「じゃあ……サツキのように誘拐された子供たちの魂は?」
「それが問題なの……」
チヒロの声が低くなった。
「赤の王様は、そうした子供たちの魂を“生贄”にして、自分の不老不死を保っているのか……それとも……」
「……実験に使ってるの?」
「……そう。夢の中で魂を砕いて、人を殺す兵器にする……。夢の戦士と呼ばれている子供たちは、そうやって“人間兵器”にされたのよ」
「……夢の戦士……アンナも?」
***
### 狂気の面の正体
「アンナ……」
チヒロは目を伏せた。
「……アンナたちは、赤の王様に徹底的に洗脳されていた。夢の戦士としての訓練は、彼女たちに“赤の王様を守る使命”だと思い込ませるものだった……」
「……それだけ?」
「……違うわ」
チヒロは苦しそうに声を絞り出した。
「アンナは……もう“アンナ”じゃないかもしれない」
「……どういうこと?」
「赤の王様は、“狂気の面”を利用して、子供たちの魂に自分の意識を植えつけたのかもしれない……」
「狂気の面……?」
「あの子たちがつけていた、あの奇妙な仮面よ……。魂の勾玉を抜き取られ、そこに赤の王様の魂が上書きされたのかもしれない……」
マドカの背筋に冷たい汗が流れた。
「……じゃあ、アンナは……」
「……アンナはもう、赤の王様の“器”になっているのかもしれない」
***
### 魂の支配
「狂気の面をつければ乗っ取れる……そんな力があったのなら……」
「……赤の王様は、夢の世界にすら自分の意識を浸透させようとしているのよ」
「でも……アンナは……赤の王様に乗っ取られたとしても……」
マドカの声はかすれた。
「……あの子がそんなことに耐えられるはずがない……」
「……耐えているんじゃないわ」
チヒロはゆっくりと首を振った。
「……アンナはもう、自分を“赤の王様”だと思い込んでしまっているのかもしれない」
***
### 希望の灯
「でも……魂の勾玉を取り戻せば……」
マドカの言葉に、チヒロは静かにうなずいた。
「……夢の中で砕かれた魂は、いつか再び母胎のゆりかごに還る……。それが太陽の巫女たちの魂の輪廻よ……」
「……リンや、サツキの魂も?」
「……ええ。彼女たちが夢の中で“赤の王様”を打ち砕けば……きっと……」
***
夜の闇は深く、マドカの胸には一筋の炎が灯っていた。
(……私が……アンナを取り戻す……)
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ゆめのつづき
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### **『赤い傘の輪廻』——クライマックス**
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#### **1. マンホールの底**
チヒロの意識がぼやける。
どこか遠くで、雨の音が聞こえていた。
彼女の身体は、泥に塗れ、手足は縛られていた。
周囲に立っているのは、バイオレンス街の組織員たち。
「ここが、お前の墓場だ。」
冷たい声とともに、鉄製のマンホールの蓋が開かれる。
**地下は深く、底が見えない闇**だった。
黒い水が腐ったような匂いを漂わせている。
チヒロは赤子のマドカを抱きしめたまま、かすれた声で囁いた。
「この子だけは……お願い……」
だが、男たちは聞く耳を持たなかった。
「赤の王様の意思に逆らった罪だ。」
「お前はここで消えるが、子供は別だ。」
チヒロは頭を振った。
「マドカ……」
彼女の目の前で、マドカは信者の手によって引き離される。
泣き叫ぶ赤子。
「いや……やめて!!!」
チヒロがもがく。
だが、組織員たちは彼女の身体を抱え上げ——
次の瞬間、**深い穴の中へと投げ落とした。**
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#### **2. 赤いマンションの監禁**
マドカは赤いマンションの暗い部屋の中にいた。
壁には古びた赤いカーテンがかかり、空気は重く湿っていた。
窓はあるが、鉄格子がはめられている。
——どこにも逃げられない。
信者たちは、彼女を「聖なる巫女」と呼んだ。
「赤の王様の花嫁」として、次の**転生の儀式**に使うためだった。
彼女は、次の王——リネンを生む器。
「……いやだ……」
マドカは膝を抱えて震えた。
彼女の記憶は曖昧だったが、**どこかで見たことのある光景**があった。
(ここは……)
思い出す。
胎児の記憶の奥にある、過去の世界。
「……私は……ここから出なきゃいけない。」
しかし、扉の外には信者たちが見張っている。
逃げ出せば、殺される。
(でも、私は……)
そのとき、彼女の耳に囁き声が聞こえた。
——「赤い傘は、横断歩道の向こう側にある。」
マドカは、ハッと顔を上げた。
**それは、胎児の頃から見ていた夢の中の声だった。**
---
#### **3. 赤い傘の先へ**
赤いマンションの中庭には、一本の鉄塔がそびえていた。
その頂上に、**赤い傘**が浮かんでいた。
「……あそこへ行けば……」
マドカは確信した。
そこが**出口**だ。
彼女は静かにベッドから降り、裸足で冷たい床を踏みしめた。
信者たちが祈りの声を上げる隙をついて、廊下へと忍び込む。
(……このまま逃げる。)
しかし——
「どこへ行くの?」
**後ろから、赤の王様の声が聞こえた。**
マドカの心臓が跳ね上がる。
振り向くと、そこには長い赤いローブを纏った男が立っていた。
彼の顔は人間ではなく、ただの影。
「お前は、ここを出ることはできない。」
マドカは後ずさる。
「お前は、赤の王の意思を継ぐ者だ。」
「お前が私を産み、私はお前の中で生まれ変わる。」
「それが輪廻の摂理。」
男の声が、無機質に響く。
(私は……産みたくない。)
(私は……お前の器じゃない!!!)
次の瞬間——
マドカは駆け出していた。
鉄塔の階段を一気に駆け上がる。
後ろから、信者たちの怒声が響く。
「止まれ!!!」
「巫女が逃げるぞ!!!」
だが、彼女は止まらなかった。
嵐のような風が吹き、雲が裂ける。
鉄塔の頂上で、**赤い傘が待っていた。**
マドカは、それを掴もうと手を伸ばした——
---
#### **4. 輪廻の終わり**
——ガシッ!!!
誰かの手が、マドカの腕を掴む。
振り向くと、そこには**チヒロがいた。**
彼女の身体は泥に塗れ、傷だらけだった。
けれど、彼女は確かにそこにいた。
「……お母さん?」
チヒロは微笑んだ。
「もう、大丈夫。」
その瞬間、赤い傘が大きく開いた。
嵐の中、光が溢れる。
**——そして、マドカは飛んだ。**
赤い傘に導かれ、彼女は空へと舞い上がる。
赤いマンションが遠ざかる。
バイオレンス街が、黒い霧のように消えていく。
**輪廻転生の儀式は、ここで終わる。**
「——さよなら、赤の王様。」
マドカの囁きとともに、赤い傘は風に乗り、彼女を未来へと運んでいった。
---
### **『赤い傘の輪廻』——完**
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