ちみっこ魔女転生~使い魔がコアラだったので、たのしい家族ができました!~

ゆいレギナ

1章 コアラとの出会い

第1話 幼女とコアラ


 ある日、わたしの婚約者である王太子が告げた。


「浮気者であるルルティア=ルディール嬢には、オレとの婚約を解消してもらおう!」

 

 ……百歩譲って、婚約破棄は許そう。

 このパルキア王国の王太子とて、彼はまだ十歳。此度、様々なことで幻滅させてしまったのは事実だ。それに、学園生活を始まり、初恋したりとか、彼なりに青春があったのだろう。立場とかあれど、年齢のことを鑑みれば、むしろ健全のような気もする。十歳の男の子が、わたしのような四歳の女の子と遊んでもつまらないよね。


 ただ、わたしは浮気なんてしてないぞ?

 今は入学一か月して行われる、新入生お披露目兼懇親パーティー。そんな会場のど真ん中で指されても、他の生徒ら、教師らすらキョトンとしている。


 だって、わたしは現在、四歳なのだ。

 四歳児の浮気とはいかに……?


「も“お」


 今日もわたしの左腕に、使い魔であるコアラが抱き着いている。

 こうなりゃ、いつものやけくそだ。

 あーあ、今日もわたしのコアラがかわいいなー!!

 


 時は遡り、入学式。


「あなたの使い魔は……なんだこれ?」

「……コアラではないでしょうか?」


 公認魔法使いの資格が唯一とれる、いわゆるエリート魔法学園に入学して、最初のイベント――それは使い魔召喚の儀式だ。


 この『マジカルティア』という世界で、魔法を使うためには使い魔の力を借りる必要があるため、その生涯の相棒を異界から呼び出す……という、ファンタジー好きな読者ならどきどき・わくわくの儀式で……わたしの使い魔として召喚されたのは、コアラでした。


 そう、体長は人間の赤ちゃんサイズ。大きな丸い耳に、大きな黒い鼻。灰色のふさふさ体毛。オーストラリアか動物園で暮らす、あの絶滅危惧種のコアラである。


 しかし、国一番と謳われる召喚師のお兄さんは、白黒した目で魔方陣の上にひょこんと座るコアラを見ている。


 わたしはコテンと小首を傾げた。


「あれ、この世界に、コアラいない?」

「少なくとも、僕の記憶にありませんが……ルディール侯爵家では有名なのでしょうか?」

「いやあ……わたしも夢で……見ただけかもしれません……」


 そんな使い魔が召喚されてしまった新米魔法使いルルティナ、四歳。

 わたしは俗にいう転生者である。


 前世は負け組アラサー喪女。

 ブラック社畜のつかの間の癒やしが、かわいい動物動画を観ること。


 だけど過労死して一変、魔法世界『マジカルティア』で侯爵令嬢として転生した。癖のついたピンクの髪に、水色の大きな瞳を持つ、絶世の美少女だ。


 しかも、通常十歳前後とされる魔力の発現が、まさか二歳の誕生日。

 そのため、あれよあれよと六歳年上の美少年な王太子と婚約。

 さらに、現在四歳の幼女にして、エリート魔法学園の入学まで果たしてしまった。


 そんなバラ色な第二の人生を歩んでいた最中……突如、登場したのがコアラである。


 コアラはまわりのどよめきと困惑を一切気にする様子もなく、ゆっくりと四つ足で近づいてきて……足からよじよじとわたしの身体を登ってくる。あ、左腕にくっつくんだね。あたたかいや。


 登ってくるときも爪が痛くなかったし、重さも腕に軽いぬいぐるみがひっついている程度。まさにご都合ファンタジー調整ありがとう。


 そんなわたしとコアラを見比べた召喚師のお兄さんが、生唾を呑む。


「前代未聞の使い魔……まさにルルティア嬢が未来の魔女である証明なのかもしれません……」


 魔女とは、魔法使いたちの最高権威を持つ称号なんだって。

 権威を築いた初代が女性だったのでそう呼ばれるが、男性でもなったら『魔女』らしい。細かいことを気にしない世界観は、ずぼらなわたしにとってありがたい。


 とにかく、お兄さんの言葉に、会場の他新入生や教師陣が沸き立つ。

 稀代の天才! 魔女の誕生だ! これで我が国の将来も安泰だ!


 そんな歓声の中、左腕のコアラが口を開く。


「も"ぉ」


 いや、なんて発音? 鳴き声が渋すぎるんだが?

 でも、挨拶してくれたと思えば、これもまた愛嬌だよね。


 二度目の人生、コアラと世界一の魔女を目指すというのも、なかなかユニークで楽しそうじゃないかな!


「よろしくね、コアラ」

「ぐも」


 わたしは大の動物好きだ。たまの休みにはストレス発散で、よくひとりで動物園に行っていたくらい。日本では絶対に飼えなかった動物を堂々飼うのも、これまたファンタジー!


 だけど一方、婚約者であるパルキア王国、王太子カーライル殿下が奥歯を噛み締めているのが見えた。金髪に碧眼で、ちょっとキザっぽい髪型ながらも、顔立ちの整ったザ・王子様である。


 入学前から交流があり、年下のわたしに戸惑いながらも、一生懸命エスコート(という名のお世話)をしてくれていた。たまに偉そうな発言はありながらも、小学校低学年が未就学児の面倒をみていると思えば、全然許容範囲。それなりに仲良くさせてもらっていたと思う。


 叔父さんが憧れとかで、学園に入る前から必死に魔法の勉強もしていたっけ。


 そんな殿下が召喚されたのは黒猫だった。魔法使いの相棒といえば王道だよね。

 他の子たちも、やっぱり猫やカラスやネズミあたりが多いみたい。ニワトリだった子は頭を抱えていたけれど。


 だけど、殿下の視線が気になるな。コアラのほうが良かったとか? 

 かわいいもんね、コアラ。

 

 こればかりは代えてあげられるものではないらしいけど、頼まれたら喜んで撫でさせてあげようと、お姉さん気分で思っていたわたしだった。


 ……このときまでは。

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